先進技術の流入と旧態化するプラント施設の間で

Submitted by Shin Kai on

 

ここ数年、様々な技術革新を主導してきたIT 業界から、IoT、ビッグデータ、分析機能とAI 活用、仮想化技術とネットワーク・クラウド活用など、製造業分野に向けて様々な提案が押し寄せてきて、製造業全体がデジタル・トランスフォーメーションの潮流の中に取り込まれつつある。熟練技術者層の退任と現場の若返りのための技術継承問題や、人口動態の変化に伴う人材不足・人手不足の深刻化もあいまって、働き方改革の議論がこれと並行して行なわれている。

さる1月初旬の日本電気計測器工業会(JEMIMA)の年賀交歓会で、来賓挨拶した経産省商務情報政策局商務情報政策統括調整官の吉本豊氏は、世界中の製造業を含む産業分野で起こっているデジタル・トランスフォーメーションの流れを、「流行ではなく構造的な変化」であるとして、この不可逆的な変化に遅れず、むしろ先取りしていくために同省の産業政策 「Connected Industries」を推進すると語っていた。またこれと同じ日に新聞各紙で見出しに出た「東京23区の新成人の8人にひとり、新宿区ではおよそ半数が外国人」という報道も、社会的な人的構成の「構造的な変化」の一端ととらえる時期に来ているのだろう。そしてこの構造的な変化のインパクトは、プラントが採用する技術ばかりでなく、デジタル技術を用いる人も組織もビジネスの形態も変わることを促している。

「構造的変化」への対応

一方で、この構造的な変化に取り囲まれながら、十年あるいはそれ以上にわたって新規投資がなかった全国の連続プロセスプラントやバッチプロセスプラントは、変わっていない。すなわち、旧態然たる設備や新旧混合の設備を懸命に保全しながら、生産の安定維持が図られている。プロセス生産現場が先進技術や社会の構造変化に馴染みにくいのも「構造的」と言ってしまえばそれまでだが、それで収まらないのは、旧態オートメーションシステムによる生産活動は故障による生産障害の発生リスクを確実に高め、そのシステム維持の保全費用が事業収益を脅かす勢いで増大するのを避けられないからである。「今まで現場のがんばりで運転できてきたんだから、これからも頑張ればいい」という工場長のガンバリズムが、中国をはじめとする世界の新興工業市場に対してプラントと生産品の競合力の弱体化を招いていることに気づいている現場はまだ幸いである。

しかし現状は、現場のエンジニアが設備の旧態化と生産障害の発生リスクの増大を理解している場合でも、多くの国内プラントでは、それを設備更新を決断する十分な理由とはならない。IoT や分析機能やAI の活用による生産効率の向上、生産品質の改善ばかりか、定量的な投資効果度が示しにくいサイバーセキュリティ対策でも、投資に対する稟議書は依然として通りにくい。この傾向は日本に固有というわけでもなく、成熟した先進工業地域に共通している問題である。

プロセス・プラント・オートメーションが取組む事業課題

ARC が今週発行したInsights 報告 「オートメーションが取組む事業課題トップ10 (Top Ten Business Challenges Addressed by Automation)」 は、ARC のAS(アドバイザリ・サービス)会員向けのレポートであるが、多くの技術エンドユーザ企業と連携してきた経験を基に、どのようにすればオートメーションシステムの更新を正当化でき、先進のオートメーションからの利益を享受できるかを提案している。その10 の要点のなかから3点だけを要約してご紹介したい。

● 運用の卓越性(Operational Excellence)を通じて格段に優れた業績(business performance)を達成しこれを維持する

オペレーショナル・エクセレンス(OpX)は、業務改善プロセスが現場に定着し、業務運用が強靭化して競争上の優位性にまでなっている状態のことを言う。多くの製造業者にとって、格段に優れた業績は、この運用の卓越性(OpX)を実現することと密接に関わっている。改善を継続する状態を保つことがその要点であり、オートメーションはそれらの改善を容易にする。その基本的な前提となるのは、急激な価値の増大を生み出す波が知識と権限によって活力化された人から生まれるところにあり、これは、技術主導型の漸次的な変化がコスト削減と効率向上から漸次的な価値を導き出してくるのとは異なる性質のものである。

先進的なオートメーションシステムは、より多くの人々が正しい決定をより多くの機会に実現するために必要となる接続性や情報統合や意思決定支援や可視化の機能を支援する。企業がどのように投資しどのようにその結果の情報を活用するかによって人々の活力度は大きく変わる。

● 人とプロセスと物理的設備機器の信頼性を高める

重工業領域においては、多くのプラントは1日24時間週7日の無停止状態で操業される。その他のプロセス及びバッチ業界では、プラントは事業機会に即応して必要とされるパフォーマンスレベルに到達する準備ができていなければならない。そこで信頼性が重要になる。異常状況管理(Abnorml Situation Management: ASM)コンソーシアムその他による調査では、信頼度喪失の3大要員は人、装置、プロセスである。オートメーションはそれぞれの領域で信頼性の維持に役立つものを備えている。

 複雑性とカスタム化を低減する

プロセス製造は複雑化しやすい。もしも一定の戦略無しに基本ベースとなるオートメーション技術を導入すれば、その運用は困難を極め、コスト高を招く。他方、新しいオートメーションを(これと関連する情報技術とともに)事業ソリューション全体の一部と見なすことができれば、オートメーションは全体の複雑性を緩和化するのに役立つだろう。

さらに、プロジェクト絡みのカスタム化が不必要な複雑性を加えることになる。通常のプロジェクトのエンジニアリングの約75パーセントはカスタム化が絡んでいる。オートメーション技術の最新世代は、関連産業及び業界標準に関して以前の世代よりはるかに配慮がなされており、新たな「付加価値プロセス」が初期および長期のカスタム化の要請を大幅に低減できるところまで来ている。