中国オートメーション市場の回復は本物か

Submitted by Shin Kai on

 

ARC は、世界のアドバイザリサービス会員企業向けに、世界のオートメーション業界の直近の業績動向と予測をまとめたARCオートメ-ション指標(Automation Index)を定期的に発行している。先週、この編集のためにグローバルで各地域のアナリストが参加するPCオンライン会議が催され、これに参加した。そこでは、日本のFA ディスクリートオートメーション企業の2017年の年初から4-6月期に続く好業績と、その背景にある中国市場の急回復が話題にのぼった。では、中国の回復は本物か。その会議における上海在住アナリストとの議論を踏まえて、今回は中国のオートメーション市場の回復傾向とその背景について少し述べたい。

7月に発表された日本のFA関連企業各社の4-6月期の業績は軒並み好調だった。前年同期比で見ると、ファナックは32.1%増、キーエンス24.1%増、安川電機18.9%増、また、オムロンのIAB 事業が22.1%増、三菱電機の産業メカトロニクス事業が16%増、富士電機のパワエレシステム・インダストリーソリューション事業が14%増と2ケタ伸長を遂げており、収益も2ケタ増を達成した企業が多かった。

4-6月期の好調原因

好調の原因は、5月以降の為替が、対ドル、対ユーロで円安基調となったこともあるが、各社の決算概要からは、韓国でのOLED 事業の大型投資、台湾での半導体・IT関連投資の好調とともに、中国市場の急回復がその要因のひとつとして働いていることが分かる。中国で投資が活発化している分野としては、制御コンポーネンツ関連でスマートフォン、電気自動車関連Li-Ion電池、半導体・電子部品、工作機械向け、またロボットでは、自動車関連で溶接・塗装ロボットが堅調で、一般産業向けロボットも好調だった。中国向けモーション制御系機器の需要は近年、スマートフォン大手のアップルとサムスンの新機種量産のタイミングに併せて大きく需要が膨らむアップダウンを繰り返してきたが、最近はHuaway (華為)、OPPO、 Vivo (維沃)ら中国メーカの台頭によって、需要が高水準で平準化する傾向にあるという。

中国市場の転換要因

ARC 中国のアナリストの報告によれば、2015年を通じて低迷した市場は、同年第4四半期に底を打ったものの2016年を通じてはっきりしない景況が持続した。これが2016年第4四半期に急展開し、製造業PMI(購買管理者指標)が11月、12月連続で2016年の最高値に達すると、それ以後、2017年も継続してオートメーションへの投資は拡大している。この投資回復の要因としては、第1に景気の循環。過去30年にわたり経済成長を遂げてきた中国にもほぼ7年周期で景気の好不況の波がある、という。その好況への転換点を超えて産業界が広範に好況期に入ったという認識だ。

第2に、鉄道・地下鉄網、高速鉄道、空港、高速道路の延伸といった中国政府によって2016年に再強化された巨額のインフラ投資効果。第3は、国務院が主体となって推進する「中国製造2025」の産業政策への投資効果である。2016年だけに限っても、中国の中央政府はスマート製造など「中国製造2025」に7億5,000万ドル規模の支援を実施しており、これがオートメーション投資を後押ししていることは間違いない。

好調はいつまで続く

とはいえ、現状の投資モードは、「中国製造2025」が掲げる製造業の先進開発分野に限らず、プロジェクトに参加しない従来型の製造業でも総じて活発となっている。このため、好況の主たる要因は主として景気の循環にある、というのが中国アナリストの主張である。これに従えば、現在の投資増勢の基調は当面続くという予想になる。また、インフラ投資も中央政府と地方政府が別々に継続推進しており、「中国製造2025」への投資も年々拡大してきている。これに加えて、2017年秋には5年に1回の中国共産党全国代表大会の開催が予定されており、中央も地方もこれに向けて経済的成果を競う状況にある。従って2017年はその政治的な意味からも景気の腰折れが許されないタイミングといってよいだろう。

「中国製造2025」への公的補助

中国を10年間で製造大国から製造強国にすることを目指すこの国務院主導プロジェクトは、情報化と工業生産を融合するスマート製造の実現に留まらず、工業基礎能力の強化、品質・ブランド力の強化、環境配慮型モノづくり、製造業の構造調整、さらに製品ではなく生産能力を提供するサービス型製造業などが開発の課題となっており、プロジェクトは多面的である。これに対する公的支援は、中央政府と地方政府がそれぞれ、新規事業、既存事業の更新の双方に対して補助金を付与する。

中央政府の補助金の交付を取りまとめる機関が中国工業情報化部(MIIT)であり、2016年には600件の公募案件中、133のプロジェクトを採用し補助金を交付した。この総額は約52億元であった。これに対し、地方政府(州または有力市の単位)での補助金の総額もこれと同等かさらに上回る規模が予想されている。従って、総計100億元(約15億ドル)を超える投資が2016年に「中国製造2025」プロジェクトの補助金として投入されたことになる。

日本のオートメーション企業としては今後、このような公的な積極投資を含めて、中国の産業の高度化と成長の機会をとらえつつ、その開発の方向性をしっかり見極めて、中国企業との協働を通じてこれらと連携する道を探る必要があるだろう。