リナックスのEdgeX ファウンドリの活動に注目する

Submitted by Shin Kai on

 

米国が欧州、日本に対してソフトウエア開発の優位性を保っている最大の要因のひとつは、企業枠を超えたソフトウエアの共同開発と評価の環境が成熟していることにある。基本的に開発エンジニアの誰もがプロジェクトのソースコードの開発に参画でき、協働して開発されたソフトウエア成果も基本的にフリーかつオープンに活用できる。Linux (リナックス)OS の近年のめざましい成果はその共同開発の最も傑出した事例である。その活動を推進するLinux ファウンデーションがこのほど、産業用IoT (IIoT)のエッジコンピューティングの簡素化と標準化を目指してEdgeX ファウンドリを立ち上げた(既報)。この動きはいくつかの理由で注目に値する。

共通フレームワーク確立の必要性

まず第1の注目点は、EdgeX がエッジコンピューティング領域に共通のオープンなフレームワークを確立することを目指している点である。現場でつながる機器、センサの上位にあって、しかもクラウド接続の下位に位置するエッジ部のIoT ソリューションを構築するために、これまで市場には共通のフレームワークといったものが存在しなかった。EdgeX はこのエッジコンピューティングの部分に共通したオープンのプレームワークを確立し、加えて相互運用が可能なプラグアンドプレイ式のコンポーネントを提供する企業のエコシステムを構築することにより、統一的なIIoT 市場を形成しようとする。

IIoT では、現場から吸い上げるデータ量の増加に伴いネットワークトラヒックは膨大化する。このデータ集中を軽減し、データをクラウドや中央データセンタに送信するかわりに、ゲートウェイ機器を介してローカルで迅速なデータ分析を実施し、制御情報として現場にその結果を反映させるエッジコンピューティングが現実的な解として注目されている。しかしその開発は個々の現場の要求に対応した特注品仕様となり、分散的でコストと手間がかかり、転用も難しいのが現状である。この状況が続けば特注品市場は増大するが、IIoT の設計導入はますます複雑化して結果的にIIoT の受容と普及を妨げることが懸念されている。

EdgeX は、このエッジコンピューティングに共通のフレームワークをもたらすことで、開発と導入を簡素化することを目指している。共通のフレームワークを、どのようなハードウエアやOS やアプリケーション環境の組合せにも対応して作動するように設計することにより、幅広い用途目的に応じてデバイス間、アプリケーション間、サービス間に相互運用性を提供するようになる、という。このEdgeX の参画会員が開発するソフトウエア間の相互運用性は、認証プログラムを通じて保証される仕組みである。

すでにEdgeX の開発向けに、デル(Dell)がApache 2.0 フリーソフトウエアライセンスのFUSE (Filesystem in Userspace)ソースコードのベースを提供している。これには十数種のマイクロサービスと、12万5,000 ライン以上のコードが含まれているが、これらはすでに既存の接続標準規格と、エッジ分析やセキュリティやシステム管理、サービスといった商用付加価値機能の間の相互運用性を容易にするために、技術プロバイダやエンドユーザのフィードバック数百件を反映させている、という。さらに、Two Bulls やBeechwoods Software などがこれまで開発してきたIoTX プロジェクトのソースコード資産もEdgeX の開発に統合される。

セキュリティ対策

第2の注目点は、エッジコンピューティング部のセキュリティの確保である。設立メンバー企業のなかには、Neustar、ForgeRock、Bayshore Networks といった産業用サイバーセキュリティ開発企業が含まれる。EdgeX はIoT スタックを通貫してセキュリティの統合設計を実現する見通しであり、EdgeX API をサポートする企業がそれぞれのソリューションを共通フレームワークにプラグインする場合に、プラグイン可能なセキュリティを実現する計画である。

EdgeX ファウンドリ設立時の会員数は、企業と標準化・業界関連団体を合わせると50社・団体近くに上る。その顔ぶれは、Advanced Micro Devices (AMD)、Analog Devices、VMware、FogHorn Systems など多様である。4月のハノーバーメッセでは、Opto22、Dell、Linaro など設立会員の一部がEdgeX のプロトタイプのデモを実演した。EdgeX コードの最初の発表は5月中旬に、またEdgeX 1.0 の会員コミュニティ・リリースは10月1日に計画されている。IIoT のエッジコンピューティング領域に関して統一的でセキュアな市場を形成しようとするこれら会員による共同開発の成果に注目したい。