ARC が予測する2019年技術トレンドトップ5

Submitted by Shin Kai on

 

ARC は毎年末に、翌年に注目すべきオートメーション業界の技術動向を発表しており、昨年末にも2019年技術トレンドのトップ5を発表した。エンドユーザ企業の読者はこれらの技術に関してすでにセミナー等で何度も聞いたり、展示会場でのデモをご覧になっていて、取り立てて目新しさはないだろうが、今年、それぞれの具体的なアプリケーションの提案と現場での実用化が進む、というのがARC が予測評価するポイントである。

ここ数年、製造業の経営・管理・運用の効率化、高度化と課題解決に向けて夥しい数の新技術の流入が続いているが、そのなかで、技術面と実用面においてある一定の成熟度に達したものだけが、これを採用した現場で成果を上げることができる。「破壊的」と喧伝される飛躍的な革新技術がもてはやされる一方で、現場が新技術に振り回されて社内外を含めたリソース不足への対応が追い付かないようでは、いつまでも投資成果は期待できない。

ARC が注目するのは、産業と社会インフラの業界におけるデジタル変革(digital transformation)の進展を支援するIT とOT 間の融合が加速化すると予想される領域である。そこで2019年に製造や社会インフラの現場で浸透し始めそうな技術を、順不同で取り上げてご紹介したい。

● 技術・技能知継承を支援する拡張現実(AR)の幅広い浸透

世代交代が進む職場環境において、効果的で効率的な技能知の継承は差し迫った課題となっている。その解決法の一つとして、現実世界に情報をデジタル的に半透明に被せて見せる拡張現実(AR)技術の採用が進展する。

AR 機器は従業員が何を見ているかを感知し、運用目的で手元に必要なデータだけをオーバーレイ表示してみせる。これは、タブレット端末やスマホを利用する場合には映像のシースルー技術によって実現可能となり、またスマートグラスやウエアラブルコンピュータを利用する場合には、光学シースルー技術がこれを可能にする。実用面では、組み立て生産工程で、AR 機器が実物とそのデジタルツインのモデルをオーバーレイして見せる拡張現実によって作業員に作業指示を提示し、作業の進捗を監視し、そのフィードバックを提供し、品質管理のための自動検査まで取り込める。また、保全・サービス運用では、AR 機器が、保全員・サービス技術者向けに、設備の診断、作業手順書情報、記録機能といったワークフローの詳細と手順、および遠隔の専門家に助言を求めるプラットフォームを提供する。AR 利用者は、現場の映像を遠隔の専門家と共有することが可能であり、これを受けた専門家はその映像上に注釈を付したり製造・保全のための詳細指示をAR 利用者向けに送り戻すことができる。AR の活用によって、迅速な処理、手戻りの削減、ダウンタイムの低減が期待できる。

● 運転訓練、シミュレーションのための仮想現実(VR)の活用増

作業員の訓練に効果を上げるための手段として仮想現実(VR)の技術が注目される。この技術によりユーザは、頭からかぶる機器を通して仮想世界に完全に没入する。目と頭の動きを感知するセンサが、ユーザの動作と仮想ディスプレイを同期させる。このVR 訓練システムは没入型の経験を生成して、製品や工程設計、訓練シミュレーションなどの用途に役立つ。

VR は作業手順に即してリアルタイムのデータを重ね合わせ、極めて現実に近い仮想訓練環境を提供できるから、オペレータ、保全員、プラントエンジニアは、様々なプラントや現場のシナリオを、安全かつオフラインの環境で試すことができる。これによって、実践の現場環境における未知の要素を減らす効果がある。現場のオペレーションを妨げることなく、実践的な訓練シナリオを様々に変更して繰り返し試すことができるメリットは大きい。とりわけプロセス業界でVR 訓練の注目度が高まっているのは、この業界では設備機器や運転・保全の手順に習熟していることがまず要求されるからである。この技術は若者世代にも受け入れられやすく、必要な技能に習熟するために繰り返し、負荷を感じさせずに訓練できる。

● クラウドとエッジコンピューティングを組み合わせたソリューション展開の増加

IT とOT の融合領域を拡大しつつデジタル変革を推進していくうえで、用途ごとのコンピュータ性能のリソースをどのように配置していくかの配慮が必要となる。ここで企業は、クラウドとエッジの両ソリューションを同時に活用する基盤を整えることにより、コンピュータ性能のリソースを広範囲に活用できるようになる。

製造現場の環境では、正確な機器データを準リアルタイムで取得するためにエッジ技術が用いられ、現場の判断力の向上と生産工程の制御に役立てられる。エッジのデータは前処理され分析されると、クラウドに送られ、IT グループが事業経営に重要となる情報を取得する目的でこれを活用する。

エッジ/クラウドの同時展開には、組込み分析機能を備えたエッジ機器、エッジサーバ、ゲートウェイおよび業務グレードの可用性と性能を提供するクラウド基盤が伴う。企業は、エッジとクラウドの両技術を組合せた実用的な情報を、それを必要とする担当者に供給することで、リアルタイムの事業・運転判断に役立てることが可能になる。そこでは、複雑なデータパターンから意味を抽出するために設備監視、分析機能、機械学習(ML)、人工知能(AI)などの技術がフルに導入され活用されることになる。それによって、生産工程や運用上の非効率の原因を特定し、安全や生産や環境で問題化する可能性のある課題をピンポイントで突き止めることができるようになる。

● IT/OT サイバーセキュリティの融合

産業用プラント、工場の関係者で、近年のサイバーセキュリティに脅威の増大を感じない人があるとすれば、それこそ脅威である。産業界におけるサイバーインシデントの報告が示すところでは、攻撃者はIT/OT の境界を越え、この間のセキュリティ分担範囲のギャップを突こうとしている。組織的な縦割り(サイロ)構造も、IT とOT の双方のグループに通用するサイバーセキュリティの人材不足問題をさらに複雑にする要因となっている。この一方で、産業用IoT 機器とネットワークエッジ機器の増加は、攻撃を受ける可能的領域をますます拡張している。

センサからの情報を制御システムと整合化しようとすれば、IT/OT の責任分担に混乱を招く。新規の設備向けにサプライヤ数を増やせば、セキュリティ強化の要件はさらに複雑化する。このような現場の事態に対処するためには、IT とOT のサイバーセキュリティの取組を融合して、責任範囲を明確化するとともにセキュリティギャップを解消することが有効である。このことはさらに、組織全体にわたるセキュリティレベルの一貫性を確保して、サイバーリスクを低減させるのに役立つ。

● プラント、設備へのデジタルツイン技術の適用

プラントその他の設備に対応して、仮想的な表現を提供するデジタルツインの適用が増加することが見込まれる。これらデジタルツインは、図面、型、部品表、エンジニアリング分析、次元解析、製造データ、運用履歴など、設備に関連した情報のアーカイブを含んでいる。この情報は、設備の性能を比較検討する際の基線として用いることができる。

デジタルツインはまた、つながったセンサや外部ソースから取得したリアルタイムデータのアーカイブを持つことで、状態監視、故障診断、予知・処方分析機能に応用できる。そこから得られる知識は、効率性の向上、ダウンタイムの低減、故障予測など設備の稼働に貢献し、継続的な改善のための深慮へと結びつく。さらに、プラントの作業員に対して運用インテリジェンスを提供できる。すなわち、ビッグデータ、統計科学、ルールベースの論理、AI、機械学習をデジタルツインと一緒に活用することによって、複雑に絡んだ問題の根源や、問題解決の選択肢を発見し理解することができる。設備が複雑になればなるほど、デジタルツインを伴った設備への要求度が高まることになる。

ARC が今年、米フロリダ州オーランド(2月)、欧州バルセロナ近郊シッジェス(5月)、バンガロールと東京(いずれも7月)の世界4拠点で開催予定のインダストリ・フォーラムでは、これらのトップ5 技術トレンドに加え、積層造形製造技術(3D プリンティング)、協調ロボット、ブロックチェーン、オープン・プロセス・オートメーション(OPA)、TSN と産業ネットワーク、設備パフォーマンス管理(APM)、スマートシティなどのテーマを巡って議論される予定である。