IoT プラットフォーマーの競演~CEATEC 2018展から

Submitted by Shin Kai on


10月16日から4日間、幕張メッセで開催された今年のCEATEC Japan 展では、IoT プラットフォームの提案が相次ぎ、展示会場はパートナー企業を募るIoT プラットフォーマーとIoT 関連サービス企業の競演とでも呼べそうな展示内容であった。今年の出展社数は725社/団体(前年比8.7%増)、登録来場者数は156,063人(同比2.6%増)。基調講演者はコマツ、プリファード・ネットワークス、ローソン、ファナックの各代表取締役という顔ぶれだった。2016年以降、従来の家電主体の展示会からIoT、ロボット、人工知能(AI)を活用するSociety 5.0 の未来社会をテーマとする「CPS/IoT 総合展」へと転換を図る同展の試みは、いまだ途上ながら成果を収めつつあるかに見える。今年のCEATEC 展の展示会場で注目したいくつかのIoT プラットフォーマーをご紹介したい。

コマツの「Smart Construction」 と IoT プラットフォーム「LANDLOG」

コマツは建機の製造メーカから、建設事業のプロジェクト全般にわたる工程管理、エネルギ管理、コスト管理のサービス提供を可能にするIoT プラットフォームサービスへと事業構造を展開しつつある。

コマツ社長兼CEO の大橋徹二氏は初日の基調講演で、同社が2015年に立ち上げた「スマートコンストラクション」の構想に至った背景を語る中で、「建設関連会社の共通課題として労働力の不足と、安全・生産性の向上の問題が深刻化している。とりわけ国内で必要とされる建設技能労働者数は、2026年には全体の3分の1に相当する128万人も不足する。これまでの商品・サービスでこれらを解決できない。また、建設会社の90%以上が10人以下の規模であり、少数者で生産性を向上させる手段が必須となる」と事業環境のひっ迫した課題を指摘。そこから、建設現場のあらゆる情報をICT でつなぎ、作業工程をすべてデジタル化して建設現場全体を定量的に把握することで、省力化と、高齢化する熟練技能者の能力のデジタル化と安全性、生産性の向上と低コスト化を同時に追及する「未来の建設現場」実現のソリューション「スマートコンストラクション」の取り組みへと議論を展開した。

すでに国内6,000件の現場で活用されている「スマートコンストラクション」は、従来の施工では、測量、設計・施工計画、施工及び施工管理、検査の各工程に分散していた情報を一元管理し、測量から施工する出来形検測まで3D データでつなぎ、見える化する。すなわち、建設現場のICT 建機のデータとともに、現場環境、地形、資材、スタッフなど建設生産にかかわるすべてのデータを収集し、クラウド経由で現場の工程作業に有効なデータに加工して現場での意思決定と実運用に活用するソリューションである。

そのプロセスは、まず、ドローンやレーザスキャナを活用して現況の高精度測量を実施し、施工現場の高精度3Dデータを自動生成する。次に、施工完成図面を3D 化し、現場から取得した現況3D データと照合することで、施工する範囲や土量を自動で計算する。また、施工期間中に起こりうる変動要因のリスク(土質、地下の埋設物など)を調査・解析しデータ化する。さらに、工期ごとに複数の施工計画をシミュレーションし、作業内容を事前に把握する。これにより、例えば、必要となる重機台数と施工工期の相関を把握できる。カスタマイズが可能な施工パターンを選択すれば、工程表作成から建機の手配まで自動化が可能となる。

次に、施工計画に基づいたICT 制御により、高度に知能化された情報一体型施工の自動化を実現する。コマツのクラウド型プラットフォームKomConnect(コムコネクト)から送られてきた施工完成図面の3D データによって、ICT 建機は自動制御され、経験の浅いオペレータでも設計図面通りの高精度の作業を遂行できる。管理者は、その日の出来形や、切土量・盛土量など出来高を、モバイル端末を用いてリアルタイムに確認できる。またICT 建機で施工した作業の実績情報はすべて、コムコネクトに蓄積・保管されるため、施工後の納品図書作成や災害発生時の復旧作業にデータを活用できるようになる。さらに、現場で設計変更の必要が生じた場合にも、コマツの遠隔サポートセンタが、設計データを修正し、その変更は工程管理やICT建機の作業に反映される仕組みになっている。

コマツはさらにそこから、オープンプラットフォームの提供へと歩を進めた。2017年7月に同社は、従来からの協業パートナーであるNTTドコモ、SAPジャパン、オプティムと組んで新会社ランドログを立ち上げ、建設事業者向けに建設業務におけるクラウド型IoT プラットフォームLANDLOG(ランドログ)サービス提供の事業に進出した。コマツが建設現場向けに展開してきた「スマートコンストラクション」のソリューション事業は、KomConnect をクラウドサービスプラットフォームとしていたが、これは、建設機械による施工プロセスを中心として施工現場の各種プロセス情報を収集・蓄積・解析し、データを現場で使いやすい形に加工する機能層と、プラットフォームに蓄積されたデータを基に生産性の向上や現場の安全に役立つアプリケーションを提供する機能層の2つの層で構成されていた。ランドログは、このうち情報の収集・蓄積・解析とデータ加工の機能層を切り出し、どの企業でもアプリケーション開発・提供に利用することが可能な建設生産プロセス全体を包含するクラウド型オープンIoT プラットフォームとして提供を開始した。これにより、コマツはKomConnect の一部の機能をランドログに委譲し、自らはソリューションアプリケーションを開発・提供するプロバイダの1社として現場の課題解決に取り組むことになった。ランドログにはコベルコシステムはじめすでに41社がパートナーとして登録されている。

CEATEC 展示会場では、「未来の現場」をテーマ化し、次世代通信5G を使ってオペレータが専用コックピットの画面を見ながら遠隔から建設現場のICT建機を操作制御するデモに加え、AI を導入して画像を解析することで、自律的に動く無人運転のショベルカーやダンプの協調作業のデモなどを披露した。

ファナックの「FIELD system」

「FIELD system」は、ファナックが、「製造現場の利益の拡大」を目的に、2017年10月にシスコ(Cisco)、ロックウェル・オートメーション(Rockwell Automation)、プリファード・ネットワークス、NTT グループをパートナーとして立ち上げたオープンでエッジヘビーのIoT プラットフォームである。CNC とロボットに加え、周辺デバイスとセンサを主に現場のフォグ環境以下の層で接続・処理して、生産を最適化するための分析機能を提供する。現在は、プラットフォーム上で活用可能なアプリケーションを拡張しつつ、国内市場での認知度の向上成果を踏まえつつ、海外市場に導入展開する段階を迎えようとしている。

サービス開始以降のロードマップを見ると、2017年10月に国内でアプリケーションや機器接続用コンバータなどが動作する専用ハードウエアFIELD system BOX 2種を発表すると同時に、ウェブ上にアプリケーションやツールを提供するFIELD system Store を開設、さらにアプリ用SKD をリリースし、ファナック試験環境とコールセンタを整備した。続く2018年4月には国内でV2リリースを行い、新API の発表、エッジ機器の制御を実現するコンバータ用SKD、エッジで深層学習を実現するためのNVIDIA GPU サポート(オプション)の提供を開始した。また米国シカゴで9月に開催されたIMTS 展示会に出展し、会場内の143社300機種以上を接続するデモを実施して、北米での初披露を実現した。

北米市場での本格展開は2019年の開始を予定している。また同年のV3 リリース時には、各社クラウドサービスとの連携接続、Windows との接続、保守サービス用スキームの提供を実現する予定である。さらに続いて欧州への展開を2019年以降に予定している。

アプリケーション開発では、すでにリリースしている稼働監視用途のiPMA、ゼロダウンタイムで異常検知、予防保全用途のiZDT に加え、今年は、CNC プログラム編集履歴、設備日常点検、加工時間予測機能、個人認証、さらに深層学習を活用したロボットアプリとしてAI バラ積み取り出し、の各アプリケーションを追加した。さらに2019年には、各社の接続機器のアラーム番号を検索可能にするアラーム番号検索、各社の接続機器のマニュアルを自然言語で検索可能にするマニュアル検索、簡易動画マニュアル作成に役立つビジュアルガイダンスを加える計画である。

同プラットフォームのパートナー企業は現在、システムインテグレーション、ネットワークインテグレーション、その両方を実現するトータルインテグレーションのパートナーに、デバイス開発パートナーとアプリケーションデベロッパを加えてすでに約500社の規模ながら、さらに今後拡大する見通しである。また今後の市場展開は、国内の大手自動車メーカ、部品加工メーカ、工作機械メーカを中心に、今年から概念実証(PoC)レベルで導入が始まり、2019年には実装の本格期を迎える見通しという。

Edgecross コンソーシアム

Edgecross コンソーシアムは、製造現場におけるエッジコンピューティングの基盤を整備することを通じてIoT 活用の付加価値創出を促進する目的で、2017年11月に設立された。幹事会社として設立時のアドバンテック、オムロン、NEC、日本IBM、日本オラクル、三菱電機の6社に、今年2月には日立製作所が加わり、会員企業総数も、設立時の51社が、CEATEC 開催時には208社に拡大した。同コンソーシアムは、製造現場とIT システムを協調させるオープンなエッジコンピューティング領域のミドルウエアプラットフォーム「Edgecross」の仕様策定と普及促進を目的とする。すでに4月には基本ソフトウエアを発売し、同時にEdgecross 対応アプリケーションを提供するマーケットプレイスを開設。CEATEC 開幕直前には、基本ソフトウエアのデータモデル管理機能の更新版リリースも発表した。

同コンソーシアムの展示フロアは、生産現場の管理・保守を統一的に実現する基本ソフトウエアのデータモデル管理機能を中心としたコンセプトデモコーナーに加え、会員企業7社がそれぞれのEdgecross 対応製品をデモする展示スペースを設けた。各会員企業のデモ内容は、データ活用(エッジアプリケーション)領域で、オムロンが、Edgecross とも連携する現場データ活用サービス「i-BELT」を紹介し、NEC は、バーチャルにシミュレーションを繰り返して結果を現実のプロセスにフィードバックすることでマスカスタマイゼーションに対応する同社の「DX Factory」の多様なソリューションとEdgecross の連携の活用例を披露した。また、東芝電子エンジニアリングが、データ可視化活用ツール「TIBCO Spotfire」に同社が開発したMT(マハラノビス・タグチ)システム解析ツールと統計機能を搭載した意思決定支援ツールなど、同社がEdgecross 対応を予定するデータ分析ソリューションを紹介した。三菱電機は産業用PC 及びリアルタイム診断とオフライン分析の両用に対応するEdgecross 対応ソフトウエアのリアルタイムデータアナライザを披露した。

また、日本ストラタステクノロジーはEdgecross 推奨認定済みのStratus ztC Edge 産業用PC を展示し、データコレクタ領域で、たけびしがOPC インターフェース仕様に対応したデバイスエクスプローラOPC サーバを、またデンソーウェーブが、工場内の各種装置に統一的なアクセス手段と表現方法を提供する通信インターフェース標準ORiN に対応し、Edgecross 対応認定を取得したORiN データコレクタを出品して注目を集めた。

同コンソーシアムによれば、Edgecross 基本ソフトウエアを発売した5月8日から10日月末までの間に、同ソフトウエアのライセンス販売数は1,000件を超えた。また、5月以降9月末までのマーケットプレイスの利用状況では、購入者登録が約120名、注文件数が約170件となり、開発者(会員)向けの開発キット・開発者向け基本ソフトウエア・保守サービスの注文件数が約90件に達した。すでに、シミュレータ、見える化・データ分析、システム監視などのエッジアプリケーション7製品、各種ネットワークに対応したデータコレクタ6製品の計13製品17型名がEdgecross 対応製品として認定され、また13社の産業用PCが推奨リストに掲載されるなど、開発面での順調な広がりがうかがわれる。

10月以降の下期を含めた18年度の目標としてはまず、公開可能な事例としてEdgecross のユースケースの構築を10件以上積み上げることを目指す。また、現在、ソフトウエア、工作機械、産業用PC、産業機器の各メーカとシステムインテグレータ、エンドユーザ、商社など208社が参加する会員規模を、期末までに300社以上に拡大する方針である。さらに、中国、台湾などアジア圏を取掛かりとして、海外展開の検討を継続するほか、Edgecross のデファクト標準化に向けた国内外の関連団体との連携を模索する方針、という。

村田製作所のセンシング・データ・プラットフォーム「NAONA」

電子部品メーカの村田製作所はデバイスレベルのIoT プラットフォームであるセンシング・データ・プラットフォーム「NAONA」を提案して注目を集めた。 昨年のCEATEC 展でコンセプトを発表したが、今年は製品アプリケーションレベルの開発を披露し、パートナー企業集めに注力した。

同プラットフォームは、雰囲気、人同士の親密度や共感度、人のモノへの注目度といった、人が感覚的に認知している「関係性情報」などをセンシングし、データ提供する。物理センサで取得したデータをゲートウェイで一次処理し、特徴量を数値化し、クラウド上で組み合わせて関係性情報に変換する。

同社はこのプラットフォームにより、これまで感覚的に認知していた様々な「関係性情報」を定量化し可視化することで、AI やロボットが人間を深く理解し、より人間らしいコミュニケーションで繋がりあう社会の実現を目指す、としている。例えば、飲食店や小売店では、店内の雰囲気や、顧客と顧客、顧客と商品の関係性を数値化することにより、接客サービスの向上を図ることができる。また、オフィスでは、会議室や執務室における従業員同士の関係性を数値化することで、働きやすい職場づくりや健康な経営環境の実現を支援することが可能になる、という。

今年、CEATECで披露したのがNAONA Edge とこれにつながるコミュニケーションセンサおよびUSB-X のハードウエア群。NAONA Edge は、84.0x54.0x17.5mm の筐体サイズの小型エッジデバイスで、これにコミュニケーションセンサやUSB-X を差し込むと、プラグアンドプレイでセンサから取得したデータをWi-Fi 通信でゲートウェイに転送する。コミュニケーションセンサは、NAONA Edge につながる61.0x61.0x18.0mm の筐体サイズのセンシングデバイスで、360度の指向性を備えたマイクで各方向からの音声の特徴量(発話量、テンポ、感情値など)をセンシングできる。また、USB-X (43.3x31.3x10.5mm) は、USB-X プロトコルを使用するNAONA Edge 専用センサで、このセンサから取得したデータがNAONA Cloud にアップロードされる。会場では環境センサ、照度センサ、環境音センサ、モーションセンサの4種類のラインアップを披露し、これらの量産化は2019年4月を予定する。

このセンシング・データ・プラットフォームのパートナーとしてこれまでに、保育園・幼稚園ケア領域でコンサルティング会社PRAISE、飲食店領域でトレタ(TORETA)、オフィス会議領域でKDDI、Phone Appli、ウフル(Uhuru)、江崎グリコ(Glico)、インタビュー領域でIBM の各社が名乗りを上げている。