ARC 東京フォーラム2018 から

Submitted by Shin Kai on


ARC は、7月10日に、第20回東京フォーラム2018 を東京・両国のKFC ホールで開催した。ARC アドバイザリグループが今年、グローバルに展開中の「デジタルでセキュアな産業、インフラ、シティへ」を共通テーマとしたイベントの概要の一部をご紹介したい。

貿易戦争の予感と西日本豪雨

今年の東京フォーラムは、オートメーション業界に限らない状況変化ながら、当初は予想もしなかった内憂外患とでも表現したくなるような雰囲気のなかで開幕を向かえた。海外にあっては、米国の保護貿易主義への傾斜が強まった。世界中の貿易相手国に向けて米国による一方的な高率関税措置が発表されるに及んで、米国が仕掛ける貿易戦争に中国、EU、日本をはじめ世界中が巻き込まれる見通しが強まり、世界的な経済減速の懸念が強まった。

また国内では、前週から西日本を中心に広い範囲で豪雨による被害が相次いだ。フォーラム開幕の冒頭の挨拶で、ARC ジャパンオフィス所長の安部周二は、開口一番、西日本豪雨の被災者に対するお見舞いを述べた。確かに、今回のフォーラムに参加予定の九州、四国、山口、岡山、広島各県と関西圏、さらに中部圏のユーザ企業のエンジニアが、被災した施設の保全・管理に掛かりきりになっていたり、途絶や多数の遅延が発生した基幹交通網の影響で、東京でのフォーラム参加に間に合わない、という事態も想像された。

開幕前の受付けテーブルを準備しながら、2011年7月に開催した東京フォーラムの折にも、その年の3月に発生した東日本大震災の影響を強く懸念しながらフォーラム開催までの準備をした事を思い出した。日本では、激甚災害と呼ばれるような災害が、数年おきに突発的に発生することを覚悟しなければならない。この国では、IoT、ビッグデータとAI の分析機能活用によるコネクテッド・インダストリーやSociety 5.0 の推進も、この想定される激甚災害への具体的な対策抜きには、現実的になりえない。

東京フォーラム概要

様々な懸念にも関わらず、今年のフォーラムには約220名の参加者があった。参加内訳は、ユーザ企業が3割強、システム・インテグレータその他アナリスト・業界団体・アカデミアが2割、残りの約5割がサプライヤだった。他方、講演者の構成は、海外からの発表者が5名、国内が6名で、例年通り全講演が英語と日本語の同時通訳で実施された。基調講演2題、3つのセッションに10件の発表とQ&A パネルに加え、展示フロアInnovations Showcase では8社がデモ展示等を実施した。

基調講演2題
-プラットフォーム

今年の基調講演には、ARC アドバイザリグループ社長兼CEO のアンディ・チャサ(Andy Chatha)が「デジタルでセキュアな産業、インフラ、シティへ」のテーマで、またエクソンモービルR&E (ExxonMobil Research and Engineering)技術スカウト&ベンチャー担当ダグ・クシネリック(Doug Kushnerick)氏が「オープン・プロセス・オートメーション: 業界標準とExxonMobil の計画」と題して発表を行った。

ARC のアンディ・チャサの発表は、製造業を含むあらゆる産業でデジタライゼーションが進行する中で、企業のデジタル化を推進するために各種「プラットフォーム」への注目とその選択を推奨することが主眼であった。ARC が規定するデジタル企業の要件には5つある。即ち、

(1)顧客中心かつ需要先導型である
(2)プラントと事業経営を変革する機会を求めている
(3)バリューチェーン全領域でリアルタイム情報を活用する
(4)オープンでセキュアなハードウエア/ソフトウエアのプラットフォームの採用を図る
(5)社内外との協働(コラボレーション)を奨励する、である。

デジタル企業はこれらを通じて企業内にイノベーションに馴染む文化を醸成することを目指す。

そのなかで、今回の発表では特に(4)のプラットフォームに焦点を絞り、製造業がすでにどのようなプラットフォームを活用し、またIoT 時代に突入して新たに形成されたプラットフォームにどのようなものがあるかを整理し、これらをデジタル化推進の階梯(ステップ)として紹介した。それによれば、IoT プラットフォームには、機器接続(エッジ・デバイスレベル)、演算IaaS (コンピュート)、クラウドアプリケーション、分析機能・AI の各プラットフォームがあり、現状ではそれぞれに異なる有力プレヤー(サービス提供者)が存在している。デジタル化を進める企業は、自社のニーズに応じて最も相応しいプラットフォームを選択し、結合してプラットフォーム間の共働を実現していく必要がある、という。

さらに、新たな傾向として、欧州・米国でオープン・オートメーション・プラットフォーム構築のために業界団体が連携しはじめていることや、ソフトウエアプラットフォームが機能別に融合し始めていることを紹介した。

-オープン・プロセス・オートメーション (OPA)

エクソンモービルのダグ・クシネリック氏は、同社が提唱者となって、IT およびプロセス業界を巻き込んで推進中のオープン・プロセス・オートメーション(OPA)の活動について紹介した。今回の発表は、その開発の動機、目標、開発経緯と現在の立ち位置、今後のスケジュールを日本に紹介し、この活動が単なる机上の議論ではなく、多くの大手・中堅企業が参画し、投資し、人材を投入して実際に動いている活動であることを説得することを目的としていた。従来のDCS に替わるプロセス制御システムとそのサプライチェーン全体の開発に関して、計画の最初期段階からこれを手がけてきた当事者が日本で発表する初めての機会となった。

同氏の発表では、特に、3つのトラックに分かれて同時並行的に進めているプロジェクトの概要、ロッキード・マーティン(Lockheed Martin)と組んで実施した概念実証の構成と成果、日本のアズビル、富士通、横河電機も加わる79社が参画しているOPA フォーラムの標準化活動、および今年後半から具体化する協働開発とフィールドトライアルの紹介に焦点を絞った。またこれらを踏まえ、標準化活動とフィールドトライアルに関する日本企業の積極的な参画を呼びかけた。

当日、フォーラムのプログラムの後半では、「仮想化と製造OT」のセッションの一部としてQ&A パネルを実施したが、その際に、このOPA に関する会場の参加者からの質問が多く採り上げられた。その中には、「OPA はセキュリティ対策をどのように取り込もうとしているか?また、なぜそれがセキュアだと言えるのか?」「OPA 参照アーキテクチャで開発課題となっているOT データセンタ、リアルタイム・サービス・バス、分散制御ノード(DCN)とはそれぞれどのようなもの(技術・ソフトウエア)か?」「OPA 標準化の範囲は?」「マルチベンダの製品やサービスを組合せてシステムを構築する場合、システム全体の性能や障害対策は誰が責任を持つのか?」といった質疑が含まれ、同活動に対する来場者の関心の高さが伺われた。