IoT に対するインテルの視点-インテルIoT ワークショップ報告(1)

Submitted by Shin Kai on


インテル(Intel)は2018年3月13日、東京都千代田区の同社内で「製造業向けIoT/マシンラーニング実装のためのワークショップ」を開催し、約20人が参加した。参加者の顔ぶれは、半導体および同素材・化成品、製造装置・設備、計測から、鉱業、組立て製造業向けアプリケーション、コンピュータサイエンス、EPC エンジニアリング、電力インフラ企業まで幅広い分野からのエンジニアとリサーチャーであった。講演では、インテルがIoT に対する同社の視点を概説し、実際に同社の半導体工場に実装したIoT/機械学習技術の事例および導入の9つのステップを紹介した。各企業でIoT の実装を推進する担当者には、1980年代の早期から生産工程の無人化に取組み、IoT とAI 導入の先進製造企業となったインテルの経験から学び、何か”気づき“を得る機会となったと思われる。その概要を2回に分けて紹介したい。

最初の講師は、米国インテルから産業セールス&マーケティンググループ、製造産業ソリューション・グループゼネラル・マネジャーのメアリ・バンゼル(Mary Bunzel)氏が務めた。概要は以下の通り。

製造業を変革する動態因子

バンゼル氏は、現在、産業市場にあって大きな破壊的作用を及ぼししつつある動態要因について語り始めた。まず破壊的作用が進行しつつある領域では、顧客の要求の変化がある。顧客の要求指向は、かつての量産やバッチ適応型から、より個別化、最小単位化する方向へ向かっている。また製造事業者は、グローバル製造へと進展するなかで、地域ごとに異なる要求、規制、環境への対応を迫られている。さらに、従来型の製品供給から、サービスを製品とする product as a service への転換を迫られる業種も出てきている。

次に、IoT 機能を製造機器とつないで実装する場合、それに伴って製造設備内にマルウエアやサイバー攻撃に対する脆弱性の問題を抱えることになる。エッジ部におけるインテリジェンスの増加傾向は新たな脆弱性の糸口となる可能性もある。

これらとは別に破壊的な変化が進むのが製造現場における人材の領域である。退職していく熟練層を新たに配置される若年層でどのように引き継いでいくかの課題がある。また、人の脆弱性への認識から、協働するロボットへの関心も高まっている。AR (拡張現実)やVR(仮想現実)技術を組込んだツールの活用によって、リスクを伴う作業現場における熟練労働者の知識を有効に活用する試みも始まっている。

さらに、市場そのものの大規模な破壊的変化がある。大手企業が変化への対応に時間を要するのに対して、小集団の起業家(スタートアップ)の対応は俊敏である。これら小集団の中にはデータを次世代の石油(富の源泉)と見なし、新規の手段でデータを収益化することによって、これまでに確立された既存の事業形態を破壊しつつニッチ市場の形成に参入する企業もある。

運用面の課題

従来型の産業が直面している課題は、状況が変化し続ける中で、運用をどのように変革していくかに係わっている。デジタル世界、デジタル経済への移行を進める中にも、依然としてダウンタイムの削減や運用リスクの削減への配慮を欠くことができない。しかも大規模なIoT の導入に伴うコスト増と共に保全費用も増大するから、これらへの対処に必要となる経費の確保は容易でない。一方で製造業において、原材料から最終製品を生産することによって企業の価値を創出する場面において、依然としてこれら全ての要素を統合する製造プロセス自体に対する取組みが必要になる。では製品品質を脅かすリスクの低減や予算内、契約納期内で生産を完結させるために事業者は何をなすべきだろうか。

設備の故障予知は18%どまり 

典型的な製造設備・機器の故障・不良の予知可能性はわずか18%に過ぎないという報告がある。すなわち、米軍、ユナイテッド航空、ボーイングがそれぞれデータを提供して作成された報告書での部品の磨耗等による機器故障のパターン評価によれば、条件付き故障発生の確率軸と時系列軸で故障発生をパターン化した場合、予知保全が可能な経年劣化絡みの故障発生のパターンが全体に占める比率が平均18%であるのに対し、予測できないランダムの故障発生のパターンが平均82%を占めた。 この報告は1968年から2011年に至る50年近くにわたる異なる組織の調査をもとにしているが、注目すべきはその間において、予測可能と予測不能の故障発生パターン間の比率がほとんど変化していないことである。

しかし一方で、この予知保全の実行がダウンタイムの削減に役立っているという報告も出ている。アクセンチュア(Accenture)によれば、機器から収集された予知保全データは、修繕費を最大12%削減し、保守作業全体の費用を30%削減可能にする、と述べている。その一方でまた、機器から得られるデータストリーミングのデータの23%未満しか予知保全用途には活用されていないというARC の調査報告もある。マッキンゼー(McKinsey)は報告書で、工場、プラントのパフォーマンス監視プラットフォームとしてIoT を活用すれば2025年までに総じて年間3.9兆ドルから11.1兆ドルの節約が可能であると指摘している。では、なぜ、IoT 活用の効用がこれほど各種調査で明らかに認識される一方で、その技術があらゆるところで普及していないのか、という疑問が起こる。答えは、それが容易ではないからである。

IoT の諸段階-データを通じてインテリジェンスを増大

インテルはIoT の実装を志す製造業者は誰でも、同じ道程を歩むことになるだろうと考えている。すなわち、それはつながっていない設備をつなぐところから始まる。つなぐと言葉で言うだけなら簡単だが、実行するのは容易ではない。設備がつながると、まずその接続のセキュリティが確保され管理されていることが重要になる。

ひとたび、高次のセキュリティでつながっていることが確認されれば、次はスマート化の段階となり、設備から出てくる情報を、運用の環境内の文脈に即して分析することができるようになる。その運用の文脈から、正常の稼働状態での性能に関するベースラインを獲得できる。アルゴリズムで示される正常の稼働状態の性能あるいは統計的プロセス制御を用いれば、異常な稼働状態が特定できるようになる。システムが異常を検知すると、それに対して予知的な状態でどういった行動をとるべきかに関する推奨が可能になる。

アルゴリズムの精度を高度化するプロセスや、性能の測定を何度も繰り返すことにより、最終的に機械学習が十分に機能し活用できるようになり、次の自律的なソフトウエア・デファインド(仮想化)段階への移行が可能になる。実際にこの最後の段階に達した企業をまだほんの数社しか知らないが、そのうちの1社がインテルの製造部門であると自負している。

以上の概論に続いて、ワークショップでは、インテルが自社工場内で開発し、自ら試行錯誤の上に実装したIoT/機械学習技術の活用および導入の9つのステップが披露された。次週のブログで、その概要をお伝えしたい。