オープンでセキュアなハードとソフトのプラットフォーム-ARC フォーラム基調講演から

Submitted by Shin Kai on

 

今回も先週のブログに続き、ARC が今月米フロリダ州オーランドで開催したARC インダストリフォーラムの中から、フォーラムのテーマを特徴付けた基調講演の概要をご紹介したい。 3人目の基調講演者として登壇したARC アドバイザリグループ CEO のアンディ・チャサ(Andy Chatha)は、デジタル化を進める企業の事業展開で重要になるプラットフォームの選択に着目し、オープンでセキュアなハードウエアとソフトウエアのプラットフォームをテーマに発表した。

デジタル・エンタープライズとプラットフォーム

デジタル技術の活用を通じて企業自体を変革し、新たなビジネスモデルを展開する企業像として、デジタル・エンタープライズということが議論されるようになった。このデジタル・エンタープライズに関して、ARC は次の5つの属性を規定している。すなわち、「デジタル・エンタープライズ」とは、

  • 顧客中心、需要主導型である
  • プラントと業務運用を変革するための機会を追及している
  • バリューチェーンを通じてリアルタイム情報を活用する
  • オープンでセキュアなハード&ソフトのプラットフォームを求める
  • 企業内およびパートナーとの協働を促す

これらを通じで技術革新に親しむ企業文化が醸成される。

アンディ・チャサの講演は、このなかのプラットフォームに焦点を絞った内容であった。

今日、製造業を含む企業活動で活用されているMES やERP など多くのアプリケーションは、極めて複雑であり、多様な機能を果たしている。ソフトウエア企業がこれらアプリ(Apps)をクラウド上に展開するようになると、これらのアプリはわれわれがデジタル・プラットフォームと呼ぶ新たなアーキテクチャに移行する。この移行により、ユーザは小規模なアプリやサービスをこのプラットフォーム上で簡便に調整したり開発したりできるようになる。このプラットフォームとは別に、目的に応じて機能ごとに小規模で独立して緩やかに相互につながるマイクロサービスも増えることが予想される。

プラットフォーム活用の現状

プラットフォームといえば新規に聞こえるかもしれないが、製造業の業務を見れば、すでに多様なプラットフォームを選択して業務が遂行している。すなわち、製造ではオートメーションや制御のプラットフォームがあり、MESや、PLMやモバイル、サプライチェーンの各アプリケーションを活用しているだろう。また業務管理部門ではERP やCRMのアプリケーションがある。これら現行のプラットフォームは主要なアプリ群、あるいは集合アプリのひと括りとでも言い換ええることが可能であることが分かる。

IoT プラットフォームの4階層

これらに対して、近年、IoT 技術の活用を促進するためのプラットフォームが多数提案されている。ARC はこれらIoT プラットフォームを4つに分類している。すなわち、(1)デバイス接続(エッジ)プラットフォーム、(2)クラウド・コンピューティング・プラットフォーム、(3)クラウド・アプリケーション・プラットフォーム、そして(4)分析機能・AI 活用プラットフォームである。

  1. まずフィールドレベルのIoT デバイス接続プラットフォームは、プラント内にある数千件の機械、制御デバイスの接続に関わる。現状で、これらのフィールド機器の多くは、すでに制御システムやオートメ-ションシステムに接続しているが、そのつながる機器の接続のほとんどは稼働状況の監視目的である。このフィールド機器の接続領域で、IoT を活用して個々のデバイス管理や接続性やアプリ開発を容易にするために、IoT デバイス(エッジ)プラットフォームの導入が図られている。このプラットフォームは、ゲートウェイなどの機器として製造現場に展開する。これには、GE プレディックス・エッジ、シーメンス(Siemens)マインドコネクト、PTC ThingWorx、テリット(Telit)IoT プラットフォームなどが含まれる。このプラットフォームは、監視デバイスからのすべてのデータを収集し、ローカルに分析を実施し、さらにさらなる精度分析のためにデータをクラウドに送ることができる。ほとんど全ての大手オートメーションおよび機械系企業はこのデバイスレベルのエッジプラットフォームを整備することになるだろう。
     
  2. 次のクラウド・コンピューティング・プラットフォームはサービスとしてのインフラストラクチャ(Infrastructure as a Service: IaaS)として確立されている領域である。クラウドコンピューティングやインフラプラットフォームの主力となり、基礎となるコンピューティング性能とデータ蓄積の機能を提供する。アマゾンウェブサービス(Amazon Web Services: AWS)とマイクロソフト(Microsoft)のアジュール(Azure)が最有力だが、グーグル(Google)クラウド・プラットフォーム、IBM クラウドIaaS、オラクル(Oracle)クラウドIaaS、アリババ(Alibaba)クラウド・プラットフォームなどもここに属する。
     
  3. さらに、アプリケーションを開発し実行する場としてクラウド・アプリケーション・プラットフォームがある。ここにはGE プレディックス、SAP クラウド・プラットフォーム、Siemens マインドスフィアに加えAWS やMS アジュールのサービスが揃う。これらを提供する少数の企業は、これらIoT 開発およびランタイム・プットフォームの開発に多額の投資を実施してきた。このレベルのプラットフォームはある種の分析機能や設備パフォーマンス管理(APM)などの組込み型IoT ソリューションを備えていて、各社ともこのプラットフォーム上でのアプリ開発を容易にするための熾烈な開発競争を続けている。
     
  4. その上にあるのが分析機能・AI 活用プラットフォームである。ユーザはデータをクラウドに上げるとこれの分析を開始する。このため、ここには分析機能、AI、機械学習、深層学習のエンジンが必要になる。すでにクラウド上にこれらのツールを提供する会社は数百社を超えているが、大手のサプライヤでは、IBM ワトソン(Watson)、SAP レオナルド(Leonardo)、シーメンスマインドスフィア(MindSphere)、SAS Platform、Sight Machine、セールスフォース(Salesforce) アインシュタイン(Einstein)、MS コルタナ(Cortana)、AWS AI サービス、Google ディープマインド(Deep Mind)などが互いに激しく機能面で競合している状況である。ユーザ企業はこれらの中から、自らのアプリに最も馴染み、有効な結果を導き出すAI を選択することが課題になる。この領域では、それぞれのユーザ企業の特定ニーズに対応すべく、特殊なIoT アプリに適合するAI エンジンを開発するベンチャー企業の台頭も著しい。

IoT クラウド・アプリケーション・プラットフォームに2つのタイプ

クラウド・アプリケーション・プットフォームに大きく2つのタイプがあることに留意されてよいだろう。タイプ1のプラットフォームは、ベンダがオープンなアプリケーション開発環境及びランタイム環境を開発・サポートし、その上では自社及び他社のアプリの使用が可能な産業用途IoT オペレーティングシステムであり、GE プレディックス、SAP クラウド・プラットフォーム、シーメンス・マインドスフィア3.0 などがこのタイプ1に属する。このプラットフォームは、フィールド機器につながり、他のIoT ソリューション利用のために全てのデータを収集する。

これに対し、タイプ2のプラットフォームは、IoT ソリューションを、マイクロソフトのアジュールやアマゾンAWS などのタイプ1のプラットフォーム上に構築するもので、このタイプ2のベンダは、サードパーティの開発・ランタイム・プラットフォームに依存してユーザニースに対応したアプリを提供する。ほぼ全ての大手オートメーションサプライヤおよび機械・装置企業がこのタイプ2の方式でソリューションを開発・提供開始しており、ABB Ability、アスペンテック AspenOne APM、エマソン(Emerson) Plantweb、ハネウェル(Honeywell) Sentience、ロックウェル(Rockwell Automation)Project Scio、シュナイダー(Schneider Electric) EcoStruxure、横河電機 IoT Solutions などがこのタイプ2に含まれる。

マイクロソフト・アジュールとアマゾンAWS がともに、それぞれのプラットフォームに多数のIoT 機能を組込むことで、そのプラットフォーム上で機械製造会社が IoT ソリューションを開発しやすくしているのは注目に値する。エンドユーザ企業がどちらのタイプを採用するかは、データを用いて何を実現したいかという目的と、事業環境に導入しやすいのはどちらのタイプかの判断次第ということになる。

IoTプラットフォーム間の連携と展開

先の(1)~(4)のデジタル・プラットフォームは連携して初めて有効に機能することになるが、このプラットフォーム相互の連携によって、IoT ソリューションの実装は、プラットフォームを利用しない場合と較べれば、はるかに速やかに実行できるようになる。プラットフォームのそれぞれは絶えず新機能と性能を拡張するから、プラットフォームユーザがIoT ソリューションを拡張するのも容易になる。 さらに、これら各種各層のIoT プラットフォームは、製造業のスマートプラント、電力業のスマートグリッド、運輸業のスマート鉄道、および公共社会スマートシティの形成基盤を支えることになる。