ARC グローバル・インダストリ・フォーラム2018 が開幕

Submitted by Shin Kai on


ARC アドバイザリグループが主催する年間で最大のイベント第22回ARC インダストリフォーラム2018 が2月12日、今年も米フロリダ州オーランドで4日間の会期で開幕した。「産業、インフラ、シティのデジタル化と安全」をテーマに掲げた今回は、参加登録者数が25カ国から925名、参加企業・団体330社、企業・メディアスポンサー数75社、登録取材記者50名、出展ブース45社と、過去最大の規模となった。フォーラムはIoT とデジタル化の着実な進展と共に、産業オートメーションを中核とする領域から社会インフラ、都市計画へとテーマを拡大しており、ARC フォーラムには初めての参加者の増加が、規模拡大の要因となっている。また会期中、ARC は、技術ユーザ企業に参加対象を限定した「ARC デジタル変革カウンシル(ARC Digital Transformation Council: DTC)」を設立し、その第1回の会合を開催した。

フォーラムは、基調講演、パネル討論のほかに48 のセッション、5 つのスポンサーワークショップで構成され、180人の講演者・パネリストがこれらの議論をリードしている。分科会は6 つのトラックに分類され、それぞれのトラックのテーマは、(1)オートメーション革新 (2)サイバーセキュリティと安全 (3)設備パフォーマンス管理 (4)デジタル変革と分析機能 (5)IT/OT/ET 融合とエッジデバイス (6)スマートシティとビルオートメーション、となっている。

サイバーセキュリティ分科会の事例発表

サイバーセキュリティ関連の参加者・セッション数の増加が際立っている。8年前に約30名を集めてスタートしたサイバーセキュリティの分科会は、今年、初日だけで7つのセッションが設けられ、各会場には180名から100名の参加者が集まっている。フォーラムの全48セッションのうち、サーバーセキュリティ関連テーマが実に11セッションを占めている。

サイバーセキュリティのセッション数が増加した背景には、市場におけるサイバーセキュリティ対策のソリューション、アプリケーション開発と提供が増える一方で、ユーザ企業間の対策が進展して、対策事例を発表できるタイミングに至っていることが挙げられる。従来、新たな標的となることを恐れて業界ではサイバーセキュリティの対策事例の発表は控える傾向が顕著だったが、今年事例発表に臨んだ企業には、電力事業のエクセロン(Exelon Generation)、米デューク・エナジー(Duke Energy)、ノーブル・エナジー(Noble Energy)、センプラ・ユーティリティ(Sempra Utilities)、米エンジニアリング大手AECOM に加え、化学大手ブラスケム(Braskem)、シェル(Shell)、ダウ・ケミカル(DOW Chemical)、フィリップス66(Phillips 66)などが含まれた。

記者発表会の話題から

開幕初日に開催された記者発表会では、13件の発表があった。エマソン(Emerson)は、コンサルティング、分析機能強化による設備最適化ソリューションでアスペンテック(Aspen Technology)と提携すると発表。また、同社DCS (分散制御システム)のデルタV で過去最大の機能更新を実現したデルタV14 の概要を紹介した。ストラタス(Stratus Technologies)は、産業制御のエッジコンピューティング分野向けに特化して開発したztC Edge システム(ztC はゼロタッチコンピュートの略)の製品概要と5月発売を発表した。フィールドコムグループ(FieldComm Group)とOPC 協議会(OPC Foundation)は、プロセス・オートメーション・システムのマルチベンダ相互運用性と統合の簡素化を図って、プロセスオートメーションデバイス情報(DI)モデルの開発を目的とする共同ワーキンググループ活動で提携すると発表した。2019年春にはDI モデルの仕様をリリースする計画である。

アスペンテックは、エマソンとの提携に加え、最近買収したApex Optimisation とRtTech Software のソフトウエア資産買収の背景を解説し、機械学習やその他高度分析機能をエンジニアリングやシミュレーションに注入することを通じて設備パフォーマンス管理(APM)を強化する方針を明らかにした。横河電機は、シナプティック・ビジネス・オートメーション(Synaptic Business Automation)のコンセプトを披露し、2020年に向けた収益主導型の運用を骨子とする同社のロードマップを示した。さらに、プラントにおいて人の介在が必要な作業を電子的に記録・管理する統合プラント運転管理パッケージOperations Management の発売も発表した。また、インダクティブ・オートメーション(Inductive Automation)は、同社の産業アプリケーションプラットフォームであるイグニッション(Ignition)のデバイス組込みを可能にするイグニション・オンボード(Ignition Onboard)プログラムをARC フォーラム会場で発表した。

シーメンス(Siemens)は同社のクラウドベースのIoT オペレーティングシステムの最新バージョンMindSphere 3.0 の特徴を披露した。ベントレー・システムズ(Bentley Systems)は、BIM 分野における中国企業の台頭の話題に加え、デジタル・コンテキスト・キャプチャにレーザ、IR(赤外線)を加えるなど技術的展開を紹介した。この他、マイクロソフト(Microsoft)はAzure Industrial IoT の概況を、またハネウェル(Honeywell)は、同社のIoT プラットフォームConnected Plant にプラント作業員の行動特性の向上に役立つSkills Insight ソリューションの追加を発表した。シュナイダー(Schneider Electric)は、ビル、データセンタ、産業、インフラの4市場を対象に、単一のEcoStruxure アーキテクチャプラットフォームを推進する事業展開、Aveva 買収による初期設計から保全にいたる一貫したデジタルツインの展開、産業ソフトウエアプラットフォームの体系化による運用ライフサイクル(収益性向上)と設備ライフサイクル(投資回収率向上)について解説した。

基調講演-オープン・プロセス・オートメーションの進捗

今年の基調講演には、エクソンモービル、デューク・エナジー、ARC の3社が登壇した。エクソンモービル(ExxonMobil Research and Engineering)エンジニアリング部門副社長のケニー・ワレン(Kenny Warren)氏は「オープン・プロセス・オートメーション:業界標準とエクソンモービルの計画」と題して、次世代オートメーションアーキテクチャの開発により、商用モデルベースで2021年に実用化を目指す同社のオープン・プロセス・オートメーションの開発の進捗状況を報告した。

同氏によれば、ロッキードマーチン(Lockheed Martin)と組んで推進中の概念実証(PoC)プロジェクトでは、ABB、Ansys、アスペンテック、インダクティブ・オートメーション、インテル、nxtControl、R. シュタール、RTI、シュナイダーエレクトリック、ウインドリバーの各社と共同し、2017年9月には運用可能なプロトタイプを作成、2018年3月までにPoC プロジェクトを完了する見通しである。またこれと並行して進行中の標準化活動では、協賛するアラムコ(Aramco)、BASF、BP、シェブロン(Chevron)、ダウ・ケミカル(DOW Chemical)、メルク(Merck)などエンドユーザ企業17社と、サプライヤ・インテグレータ・その他企業58社の一覧を公表し、参画企業数の拡大を印象付けた。日系企業では、横河電機、アズビル、富士通がこれに含まれる。(会期中、エンドユーザ企業のコノコフィリップス(ConocoPhillips)が参加を表明し、協賛ユーザ企業は18社になった。)

2018年第2四半期からは、標準化活動の成果を取り込みつつ実稼働制御システムの設計・調達・インテグレーションの協働開発を複数の参画エンドユーザ企業とシステムインテグレータ1社で立上げ、2019年中にこれを完成させる。さらに、2020年からは、複数のシステムインテグレータの参画を得て、参画エンドユーザ企業の複数の実プラント環境で並行して、フィールドドライアルを開始する計画である。ワレン氏はこれら活動の進捗を踏まえて、特に世界のエンドユーザ企業の同プロジェクトへの参画を強く要請した。

今年のオーランド・フォーラムの概要は、引続きこのブログコーナーで報告する。