シーメンスがMindSphere 新バージョンを発表、AWS と組んで国内展開を本格化

Submitted by Shin Kai on

 

シーメンス(Siemens)は2月8日、東京で、同社がグローバルに展開中のオープンでクラウドベースのIoT オペレーティングシステムMindSphere (マインドスフィア)の新バージョン3.0 の国内での受注開始を発表すると共に、日本で初となるマインドスフィア・パートナー・カンファレンスを開催して、マインドスフィアの普及加速に向けた本格的な取組みを開始した。

新バージョンは、AWS(アマゾンウェブサービス)のクラウド上での利用を可能にし、AWS の従来のサービスとマインドスフィアのデータ連携を可能にしたほか、これまでより広範囲なIoT デバイスへの接続性を強化し、産業用ソリューションと高度な分析の提供を拡充した。加えて、MindSphere Store マーケットプレイスの運用を開始し、これまでの従量課金制から、予算が見積もりやすい定額料金制への移行を実施した。また、これの導入とともにパートナー・エコシステムの構築に向けてグローバルでのパートナープログラムの運用を開始した。発表会でのポイントのいくつかをご紹介する。

シーメンス専務執行役員デジタルファクトリー事業本部・プロセス&ドライブ事業本部本部長の島田太郎氏によれば、従来型の複雑化し、高度に個別専門化して高コスト化した今日のオートメーション環境に対して、IoT は、標準品が専用品を置き換えていくことにより、システムと運用作業を簡素化し、既存のオートメーションの生産性向上に役立つような先進的なソリューションやアプリケーションの導入の時間とコストとリスクを削減する。ユーザ企業は一部のサプライヤや大企業に制限されてきた製品や情報の囲い込み環境から解放される。その意味で、本質的にIoT が実現しょうとしている「どこともつながる環境」を民主化(democratization)と呼ぶこともできる。

マインドスフィアはIoT のOS

島田氏は「シーメンスがマインドスフィアの開発で実現しようとしていることは、IoT にオペレーティングシステム(OS)を提供することであり、デジタリゼーションの出発点を提供することに他ならない」と語る。シーメンスはすでに3,000万件の自動化(コントローラ)システム、7,500万件のスマートメータなど、現場で稼働する80万件以上の接続機器のエコシステムの知見をベースに、IoT インフラをオープンベースで提供しようとしている。

OS の要件としては、第一に機器の違いを吸収する役割が挙げられる。OS が機能することにより、簡単接続した機器のデータがクラウドで共有できるようになる。強固なセキュリティを備えたOS によって、様々に異なる機器、プラント、システムからのデータを複雑な処理なしに収集できるような基盤が形成される。シーメンスはプラットフォームの3層構成のなかで、工業用ネットワークを含んだこの接続基盤をマインドコネクト(MindConnect)と呼んでいる。

その上にデータをプールするデータレイクと呼ばれるようなクラウドが必要となる。この拡張可能でグローバルIoT 接続や、 アプリケーション開発のための基盤となるオープンプラントフォームがマインドスフィアであり、この層で今回アマゾンのクラウドとの提携を実現し、そのクラウド上にOS を構築するバージョン3.0 の提供を開始した。

そのOS上で設備資産のデータ収集や分析結果を導くための産業向けアプリケーションやデジタルサービスが展開する。この層をマインドアップス(MindApps)と呼んでいる。パートナー企業やユーザ企業が自らアプリを開発し、他社へ提供することも可能になる。島田氏は「本来、新たなデジタル事業モデルの形成に向かうべき製造業者が、データを収集したり分析のためのデータを抽出してくるような手間からは解放されなければならない。シーメンスはその領域で、安価に素早くその部分の情報を提供できるしくみをマインドスフィアで実現している」と語る。

完全なるデジタルツインと現象の理解

この一方で、IoT によるデータの価値が生じるのは、収集したデータを用いて分析し、意味ある情報を掴み取る工程にある。島田氏によれば、シーメンスはこれを実現する仕組みを完全なるデジタルツイン(complete digital twin)と呼んでいる。デジタルツインに関しては単方向がありうる。すなわち、デジタルで定義設計したものに即してリアルな製品が製造される場合がそうである。これに対して、IoT の活用段階では、リアルな製品からデジタルデータへのフィードバックによる双方向のクルーズドループが形成される。このリアルとデジタルの相互連携により、様々な設計の見直し・強化やもの自体のデジタルサービスが可能になる。

島田氏は自らの航空機設計の経験を振り返り、「航空機の設計者が飛行機の実際に飛ぶ状況を完全には理解しえないで設計している」と語る。そのため、「設計は安全率をかけることになる。これに対してモノがどういう風に使われているのかの情報が取得でき、見える化されれば、それに合せて設計をさらに最適化することが可能になる」という。さらに、このリアルデータを収集することによってシミュレーションの価値がさらに高まる。「シミュレーションの担当者は、実はシミュレーションの結果をあまり信用していない。同様にテストの担当者はテストの結果をあまり信用していない。それは、さまざまな境界条件の状況に不明なことがあるため」である。境界値問題における拘束条件が不明なためにシミュレーションやテスト結果の確度が曖昧になる。

しかしこれらのリアルの情報がフィードバックされてくると、「全く違う世界が形成される。すなわち、なぜ生産の不具合が発生しているのか、本当に起こっている物理現象が何であるかということを、シミュレーションなどを通して解き明かしていくという重要なプロセスが可能になる」という。このように、フィードバックループを活用する完全なるデジタルツインを形成するためには、マインドスフィアによるIoT データのフィードバックが必須である、と島田氏は主張する。またそのためにシーメンスは、現象の理解解明のための様々なシミュレーションソフトウエアを提供し、それらツールと組み合せて現象の理解、実態のメカニズムの解明を深めていく手段を提供できる、という。

定額低料金制への移行

料金体系は、マインドスフィア3.0 から、コスト予測がしやすい定額制(日本円で固定)に移行した。提供されるテナントメニューには、MindAccess IoT バリュープランとMindAccess IoT デべロップメントオプションプランの2通りがある。バリュープランは、開発経験不要のIoT で見える化などアプリ使用から始めたいユーザ向けで、最小のユーザ数50人規模で月額約3万9,000円から。中小企業のユーザ向けに検討しやすい価格設定にした。デべロップメントオプションプランは、自社でアプリ開発を手がけたいユーザ向けで、テストシステム上でのアプリ開発を可能とするMindAccess デベロッパープランと、稼働データ収集システム上でのアプリケーションの運用とMindSphere Store を通じてのビジネス提供を可能にするMindAccess オペレータープランの2種類がある。

パートナー・カンファレンス

シーメンスは製品発表後、別室で約130名を集めて、第1回マインドスフィア・パートナー・カンファレンス開催。AWS パートナーアライアンス本部長の今野義弘氏が「MindSphere on AWS の加速支援」と題して今後シーメンスと共同パートナーの創出・育成で連携し、共同パートナーを通じた案件・事例獲得を促進する方針などを明らかにした。