オープン・エッジ・プラットフォームの競演

Submitted by Shin Kai on

 

2018年1月17日から東京ビッグサイトで開幕したスマート工場EXPO の会場では、ファナックが構想してシスコ、ロックウェル・オートメーション、プリファード・ネットワークス、NTTグループと共に昨年10月にサービスを開始したFIELD system と、昨年11月にアドバンテック、オムロン、NEC、日本IBM、日本オラクル、三菱電機が幹事会社となって設立したEdgecross(エッジクロス)コンソーシアムの2つのエッジ・コンピューティング・プラットフォームが競演して注目を集めた。

産業用IoT 技術を製造業に適用する上で、現場の設備や装置から生成されるデータの処理をクラウド上に展開するのでなく、現場に近いところで処理し現場にフィードバックするエッジコンピューティングに注目しているのは日本に限ったことではない。エッジコンピューティングを巡っては、例えばすでに米国を拠点に、Fog コンピューティングのコンソーシアムが結成され、Linux 開発環境下でEdge X ファウンドリーによる組込みOS ソフトウエアの標準化への取組みが始まっている。とはいえ、IoT プラットフォームを巡って世界に向けた提案力に疑問符がついていた日本の製造業の中で、FA 領域を核としてエッジオープンを唱える集団プラットフォーマーが盛り返しつつあることは注目に値するだろう。

Edge Heavy の必要性

製造現場における工作機械、産業用ロボット、産業機械、設備・機器はいずれも、現場にはりついて稼働しており、これらはIoT の進展と共に大量のデータを生成し始めている。これらの大量のデータをクラウドに吸い上げて処理すれば、通信量の増大を招きコスト増となる。また高速応答性と製品品質が相関する製造現場では、通信時間の遅延は、製品品質や、安全操業の面から極小化することが望まれる。加えて、製造現場のデータは生産の競合力の源泉として企業資産あるいは秘匿情報と見なされており、インターネット通信につきまとうセキュリティ問題とリスク対応の面からもこれを回避すべきという意見が根強い。この結果、インターネット経由のクラウド利用をソフトウエア更新管理や遠隔監視等に用いるほかは、ほとんど全てのデータをエッジ側で処理し、データは工場内、企業内に保存するオンプレミス型処理の開発が追及される傾向にある。

オープンプラットフォームの追求

オープンプラットフォームのメリットは、これを使う技術ユーザ企業にとっては、機械の世代・メーカに捕われず様々な機器、デバイスと自由に簡単な接続を可能にし、アプリケーションを活用したデータ処理方法の選択の自由度の拡大や、カスタマイズ化しないことによるコスト減、セキュリティ保証、またその結果として最新のアプリケーション選択を容易にする仕組みが提供されることになる。また、これまで個別対応だった機器の一括管理や保全対策、ライン全体・施設全体の最適化が実現できるようになる。

他方、アプリケーションの開発者にとっては、プラットフォームとSDK (ソフトウエア開発キット)利用による開発の容易化と効率的なユーザ層の拡大、モジュラー型展開による拡張の機会などが得られる。アプリケーションストアからダウンロードして現場のIPC に実装されるアプリケーションには、生産の見える化・分析ツールや予防保全・故障予測、旧機種の高機能化、さらにAI を活用したさまざまな設備の稼働率向上、高効率生産、高度なトレーサビリティやリアルタイムの適応制御などが期待されている。

FIELD system アップデート

製造現場で稼働する新、旧すべての生産機器を接続し、情報を集約して工場を知能化し、生産性の向上と止まらない工場を目指すファナックのFIELD system(Fanuc Intelligent Edge Link & Drive System)は、昨年10月に、アプリケーションストアからFIELD system ミドルウエアの提供を開始して国内でのサービスを立ち上げた。ユーザ企業がこのシステムの自訴すを開始するに当たり、これをサポートするSI パートナー、ネットワーク・インテグレーション・パートナー、これらを合せたトータル・インテグレーション・パートナー、デバイスパートナー、ソフトウエア・アプリケーション開発パートナーの総数は400社を超えた。またすでに工作機械や自動車部品メーカなどから6社がこのプラットフォームに現場設備・機器を接続してサービス利用を開始している。

現在ストアから提供できるアプリケーションは、工場の稼働分析や生産性改善のためのiPMA on FIELD と、生産機器の予期せぬダウンタイムを削減するためのiZDT on FIELD の2種類だけだが、今春にもプリファード・ネットワークスと協力の下に開発中のAI 深層学習対応アプリケーションのリリースを準備している。

ロボットやCNC 装置などフィールド機器をFIELD system に接続するためのコンバータソフトウエアは一部をストアで販売開始しているが、各種機器・装置を接続する仕様には、OPC UA 標準のほかにMT Connect 標準にも対応する。さらに、センサ等の接続には、各センサメーカがコンバータソフトウエアを開発し、ストアから販売することになる。開発アプリケーションの相互運用性に関しては、現在ファナック本社にだけある認証施設を名古屋にも展開し、ファナック等のシステム上で走るかの検証や、他のソフトウエアに問題を与えないかなどを評価し認証する。また今後、米、欧、アジアの順に海外市場へもサービスを拡張する計画であり、今年9月には米国での運用を開始して、提供するアプリケーション数とユーザ企業数を加速度的に増やしたい意向である。

また、アプリケーションをダウンロードするオンプレミスのIPC ハードウエアシステム構成としては、生産機器の接続台数が30台程度の小規模システム用にファナック製FIELD BASE Pro、接続台数が150台程度の大規模システム用にシスコ製UCS C220 ラックサーバの提供を開始している。

Edgecross コンソーシアム・アップデート

企業・産業の枠を超えて、エッジコンピューティング領域を軸に新たな付加価値の創造を目指すEdgecross コンソーシアムは、昨年11月に設立された。発足時に53社だった賛同企業は、スマート工場EXPO 開幕時点では86社に増加した。IT システム企業、エッジアプリケーション・データコレクタ開発企業、産業用PC 企業、FA 企業がこれに含まれる。プラットフォームの核となるEdgecross ソフトウエア(ミドルウエア)のマーケットプレイスからの提供開始を今春に控え、そのオープンプラットフォームの仕様の策定を急いでいる。他方、コンソーシアムに参加するアプリケーション開発企業向けにすでにベータ版を提供して、サービス開始と同時にアプリケーションの数も揃えたい考えである。

開発課題には、オンプレミスで様々なメーカ製のIPC 上でEdgecross プラットフォームを機能させるのに重要な、リアルタイムデータ処理とデータモデル管理が含まれる。リアルタイムデータ処理は、現場から取り込んだデータをオンプレミスでデータ分析・診断することにより、生産現場へのリアルタイムなフィードバックも実現する機能である。また、データモデル管理は、接続機器により異なるデータを階層化、モデル化、抽象化して管理し、アプリケーションがデータを活用しやすくする仕組みを生成・管理する。

またベンダやネットワークを問わず生産現場の加工機、搬送機、実装機など各種設備・装置からのあらゆるデータを収集するためのデータコレクタも重要な開発課題である。この活用により、エッジアプリケーションの開発者によるデータ収集機能の開発が不要となる。完成すれば、フィールドのデータをプラットフォームに取り込むためのこの仕様は、ファナックのFIELD system とは構成が異なることになる。

また、FIELD system が、ファナックの構想を具現化した共同プロジェクトであるのに対して、Edgecross コンソーシアムは、オープン化の徹底を図り、参加企業の協働と合意の上に技術の基本仕様をまとめあげようとしている。このため特にテクニカル部会でのEdgecross 仕様策定、コンフォーマンステストの仕様策定などに、多種多様な意見がぶつかり合う可能性も残す。

他方、これは、ファナックFIELD system とも共通の課題として、マーケットプレイス開設後に販売を開始するアプリケーションの価格設定や、アプリケーションダウンロード後のユーザ企業による活用の状況などを巡って、製造業としては未経験の領域の課題となるため、IT システムの参加企業との情報共有やユーザ会などの情報交流が一段と重要になってくることが見込まれる。さらに、両システムとも、活用事例を着実に積み上げて、ユーザから信頼を獲得することが、プラットフォーム戦略の成功に不可欠となるだろう。