2018年世界のオートメーション業界5つの技術トレンド

Submitted by Shin Kai on

 

年が改まって、迎える一年の世界のオートメーション業界の技術動向を見通すにはよい時期である。来期の事業計画や予算取りの準備にすでにダッシュしておられる方々も少なくないだろうが、今年の最初のブログとして、ARC のコンサルティング部門副社長のクレイグ・レズニック(Craig Resnick)が発表した2018年5つの業界技術トレンドを要約してご紹介したい。5つの技術トレンドには、特に軽重の順位はないが、いずれもオートメーション業界で注目すべき進展が予想される領域であり、またこれらは、2月にARC が米フロリダ州オーランドで開催する予定のARC インダストリ・フォーラム2018で議論される中心的なテーマともなっている。

概況

ここ数年間、世界のオートメーションの新技術の進展とその受容には目覚ましいものがある。この技術変化とそれを受容するスピードは今年も継続するだろう。新技術の開発にはサプライヤ企業ばかりでなく、オートメーション技術のエンドユーザ企業が率先して開発に参画している事例も少なくない。さらに民生市場で先に商品化された技術が、産業用途に転用されて採用される事例も相次いでいるのが特徴である。総じて、情報技術(IT)と運用技術(OT)の融合が加速化してデジタル変革(digital transformation)の実現に向かっている、といえる。

ARC の予想では、2018年にIT/OT の融合が一段と加速化すると見ているが、とりわけ産業用IoT(IIoT)が可能にするソリューション、サイバーセキュリティ、エッジコンピューティング、拡張現実(AR)、人工知能(AI)、分析機能、デジタルツイン(digital twins)の普及と受容の拡大、さらにオープン・プロセス・オートメーション(OPA)の開発前線の拡大を見込んでいる。

エッジ部におけるインテリジェンス強化

ネットワークのエッジ部におけるデータ処理の負荷が増大するにつれて、リアルタイムの遠隔管理と簡素化したエッジ基盤が重要度を増すことになる。エンドユーザ企業は、想定外の設備の停止を低減しつつ設備のパフォーマンスの向上により生産性を上げるといった運用上の課題に対応するために、エッジコンピューティングの取組みを強めるだろう。

ネットワークエッジの処理能力を増強しエッジコンピューティングの基盤を整えた企業は、これまで設備・装置やプロセス内に閉じ込めらていたデータを解き放ち、これを有効活用し始める。また、現場で生産の非効率性を容易に特定できるようになり、製造状態に対する生産品質の相関を理解し、さらに安全や生産や環境対策などの課題の特定についても的確に判断できるようになる。また遠隔管理の導入により、現場の運転員はリアルタイムでオフサイトの専門家とつながり、機器の故障を素早く解決したり、故障自体を回避できるようになる。省力化が進んだ現場で運転員やIT 担当が多くの追加作業を抱え込むことなく、本来の専門業務に専心できる体制がこれによって確保される。

産業用サイバーセキュリティ管理の進展

産業用途のオートメーション機器、アプリケーション、及びプラントに特有の要件を満たし、とりわけシステム更新やネットワーク通信に関して厳しい制約をクリアする必要がある分野で、産業用サイバーセキュリティ管理ソリューションのさらなる前進が見られるだろう。これらの前進は、商用ベースのIT サイバーセキュリティソリューションを採用することを基本としながら、制御システムの運用にマイナスとなる影響を排除した仕方で取り込まれるだろう。

さらに重要なことは、これらのソリューションは、機能性を拡張して、非汎用型でPC 非依存型の産業用設備や制御システムプロトコルにも適用を広げるだろうことである。これらのソリューションは、例えばNERC CIP (北米の電力会社の重要インフラ保護サイバーセキュリティ基準)のような産業特化型のサイバーセキュリティの特殊規制に対応し、IT、OT、IIoT の各サイバーセキュリティ対策を統合化して企業のサイバーセキュリティ資源を最大有効活用する戦略に役立つだろう。

オープン・プロセス・オートメーションのビジョンに弾み

ベンダ非依存型で業界標準を基本とするオープン・プロセス・オートメーション(OPA)は、推進母体のオープン・プロセス・オートメーション・フォーラムがエンドユーザ企業、サプライヤ企業を拡張することで、ビジョン展開に弾みがつく年になるだろう。

エクソンモービル(ExxonMobil)が旗揚げし、オープン・グループ(The Open Group)が標準化を管理するこの活動は、概念実証モデルの構築、標準化の確立、さらに最終的には商用ベースのオープン・プロセス・オートメーション・システムの構築を目指している。このオートメーションシステム開発は、安全とセキュリティの厳しい要件を維持しながら、ベンダ固有の技術利用を極小化し総体的なシステム投資対効果を向上させることを課題としている。その実現のために、推進母体のフォーラムは、本質的サイバーセキュリティ機能を備えた相互運用可能なコンポーネントを活用する業界標準ベースのアーキテクチャを基礎として、高度に分散化、モジュラー化され、拡張性に優れたシステムを特定するための作業に取組んでいる。

ARC会員企業は、この活動の開発の近況と課題をまとめた2017年12月発行のStrategy Report 「オープン・プロセス・オートメーション便覧(An Open Process Automation Compendium)」をご参照いただきたい。

仮想世界と物理世界の融合の進展

新技術が仮想世界と現実物理世界の融合を加速化させて、新たな事業モデルの形成を可能にしている。製造業者は、製品とともにデジタルサービスを売る新たな事業モデルを導入しつつある。物理的製品の設計どおり、組立てどおり、保全どおりの仮想複製であるデジタルツインはその一例である。製造業者は、デジタルツインのサービスを、リアルタイム状況監視や予知分析機能の形にして提供している。従って、そのサービスの顧客企業は、予知分析機能や処方分析機能に基づく保全や運用最適化のサービスと共に機器や製品を使用するようになる。

拡張現実(AR)技術は、オペレータ訓練や可視化や機械の保全を目的として、仮想設計を物理的機器と結びつけるのに活用されている。IIoT、クラウド、ビッグ・データ、運用分析機能の進展によって、AI ベースの機械学習ソリューションが、プログラミングの必要なしに運用の変更を実現可能としていく。

分散型分析機能の拡大

産業用IoT が可能にする分散型分析機能により、データ源に近い、またはデータ源の現場でのデータ処理とコンピューティングがさらに拡張される。多くの場合、分散型分析機能に用いられるデータは、運用ネットワークのエッジ部に位置するIIoT 接続のデバイスから取得される。

これらのデバイスは、ロボットや輸送車両や分散型マイクログリッドなど多種多様なエッジ部の機械や設備に近接して、あるいはその中に組込まれている。分析機能は分散型デバイス内部に組込まれるか、クラウド環境内に生成されその後エッジに送り込まれて実行動作する。運用の観点からすれば、セキュリティ、プライバシー、データ関連コスト、規制上の制約が分析機能をローカルに留める理由として挙げられる。分散型分析機能は、様々な顧客の収益向上に役立つ。

クレイグ・レズニックのガイダンスは、以上に加え、技術のエンドユーザ企業に対する推奨コメントを含んでいるが、ここでは割愛する。翻って、日本のオートメーション業界の現状をみると、IIoT の技術の活用に熱心な企業と、傍観する企業の間の差がますます拡大する様相を呈している。事業所間にデジタルプラットフォームを導入して相互連結し、その上に可視化やプロセス分析技術、設備の予知保全、サイバーセキュリティ対策のアプリケーションを積み上げ始めた化学企業がある一方で、現場の経験とガンバリズムに依存して、新技術の導入による生産効率性の向上や技能継承を疑っている化学企業も中堅レベルで存在するのが現状である。しかしこの変化の激しい時代に、先行企業と様子見企業の格差は当初こそ目立たないとしても、いずれ顕在化するだろう。ARC が報告書やフォーラムを通じて繰返し指摘しているのは、技術革新が加速化する中で、IoT、ビッグ・データ、AI 活用を通じた企業のデジタル変革は世界の潮流である。潮流の中で競い合いつつ自らを変革に晒すか、潮流から逸れて停滞するか、は企業の経営判断である。