CPS/IoT 利活用の社会的な拡がり

Submitted by Shin Kai on

 

IT・エレクトロニクス分野の業界団体である電子情報技術産業協会(JEITA)は12月19日に都内で発表会を行い、CPS(Cyber Physical System)/IoT(Internet of Things)の利活用分野の世界市場調査の結果を公表した。同調査はJEITA が推進する「超スマート社会の実現(Society 5.0)」のコア概念として位置づけるCPS/IoT について、利活用分野別の世界需要額と中長期展望を、国内外の関連企業・団体へのヒアリングをもとに定量的に推計したものである。同協会にとって同種テーマの調査報告は初めてである。報告書によれば、日本市場では2016年~2030年の間に「流通・物流」と「医療・介護」分野でのCPS/IoT 利活用が「製造業(FA・自動車)」分野の倍の成長率で伸びる、という。仕事柄、日頃は、FA・PA のオートメーション分野ばかり追いかけているが、その対象領域外のIoT 化の進展報告には興味を抱いた。

CPS の由来

少し翻ってみると、この4年間ほど、私が関わった仕事のほとんどは多かれ少なかれIoT、しかもARC の事業対象領域である産業用IoT(IIoT)のプラットフォームとユースケース、ビジネスモデル展開の話題で占められていたのに気づく。ARC はグローバル大手企業のIoT 向け大型投資の動向を背景として、2013年後半には、産業用IoT分野に世界市場調査の軸足を置くことを決定した。翌2014年4月の独ハノーバーメッセでは、シーメンス(Siemens)がIoT 技術をベースとしたインダストリ4.0 を自動車の組立工程に適用した動態デモを展示。同社は同展開幕日の夜にドイツ内外から約400名の記者・産業アナリストを集めて開催した発表会の席上で、インダストリ4.0 の主要3要素のひとつとしてCPS の概念を紹介した。

シーメンスはその発表会で、インダストリ4.0 ビジョンを具体化し実体化する主要な3つの開発領域を特定した。すなわち、生産ネットワークにおいては、柔軟なバリューチェーンを実現するための基盤となる強力な製造運用管理(manufacturing operations management: MOM)、製品設計と生産エンジニアリングを統合するための共通基盤としてのデジタル企業プラットフォーム(digital enterprise platform)、そして既存の生産プロセスに柔軟に組込むことを可能にしてプラグ・アンド・プロデュース(plug ‘n’ produce)統合実現への道を開くサイバー・フィジカル・システムズ(CPS)である。

従って、CPS は当初、スマート製造、スマート工場の実現に関わる主要概念として登場した。しかし4年足らずの間に、その利活用は製造業を超えて広く産業界と社会に影響を及ぼし始めている、という。正直なところ、日本においてCPS という概念で理解されている内容は、その概念が使用される場に応じて、様々に異なっている印象を受ける。JEITA の市場予測調査でも、CPS は単にIoT の枕言葉のようにしか使用されていない。これも、昨春、経済産業省が「日本のIoT産業政策のキーワードはCPSだ」と宣言してしまった後遺症のような気がしているのは私だけであろうか。

CPS/IoT 市場規模

JEITA の発表によれば、IoT 機器とソリューションサービスを合算したCPS/IoT 市場規模は、2016年に世界で194.0兆円、日本で11.1兆円だったものが、2030年には世界で404.4兆円、日本で19.7兆円規模とそれぞれ約2倍の成長を見込む。ネットワークに繋がる機器とソリューションサービスの拡大が続くなかで、各種機器のIoT 化率(ネットワーク接続機能を持つ比率)は2030年には86%に達する、という。市場規模の地域別構成比では、2016年の内訳は、米州34%、欧州他28%、中国16%、アジア・太平洋16%、日本6%となっている。このシェア構成は2030年になっても、中国が19%まで伸びることを除けば、ほぼ変わらない。

IoT 機器には、通信機器、コンピュータ端末機器、AV 機器に加え、ウエアラブル端末、ドローン、アプライアンス機器、ロボット、自動運転車(車体除く)、自動販売機、ヘルスケア機器などが含まれる。調査報告によれば、世界のIoT 機器の生産額は2016年が115.1兆円であったものが、2030年には247.1兆円、この間の年平均成長率5.6%増を見込む。

一方、ソリューションサービスの需要額の2030年の分野別規模見通しでは、順に製造業が25.2兆円、公共が24.4兆円、金融が223.9兆円、流通・物流が17.3兆円と続く、と予想している。

興味深いのはCPS/IoT の利活用分野の需要額見通しであり、2030年を見通したときに、世界市場での最大構成は、家庭・個人のスマートホーム領域で、アプライアンス機器のIoT 化の進展により2030年には106.1兆円規模、次いで流通・物流が44.9兆円、製造が44.0兆円と続く。2016年からの年平均の伸び率が高い分野は農業が20.2%、医療・介護が10.9%、流通・物流が10.1%などと見通している。

日本の成長分野

日本においては、2030年までに大きな成長が期待できる1兆円以上の市場規模の分野として、流通・物流と医療・介護を指摘している。流通・物流は2016年から年平均8.8%増の高伸を遂げて2030年には2.4兆円規模、また医療・介護は同8.9%の成長率で同じく2030年には1.3兆円の市場規模を見込む。

流通・物流分野で需要の伸びを支えるのは、まず倉庫内物流では、ロボット活用、ものと情報の一元管理、AI による物流予測などの課題に対応する自動ピッキングシステム、スマートパレット、パワーアシストスーツの活用などである。拠点間物流は慢性的なドライバー不足を補う効率的運行管理、貨客混載など付加価値配送などを課題とするが、ここには、車両運行管理システム、トラック隊列(フリート)走行システム、自動運転車やドローン活用による無人配送システム、宅配ボックス設置などが見込まれる。また店舗内流通では顧客動向と売れ筋商品のリアルタイム分析、EC(電子市場) と実店舗の連携を課題とするが、ここには、無人POS システム、O2O ソリューション、店舗内顧客動向分析ソリューションなどが展開する見込みである。

医療・介護分野では、健康支援システムの分野でウエアラブルIoT による健康支援やコラボヘルス/企業向けPHR(個人健康記録)、診療支援システム分野では遠隔診療/オンラインケアや、クラウド電子カルテ等院内支援、さらに介護福祉システム分野では、見守り・緊急通報サービスや介護支援ロボット/リハビリ機器の需要が拡大する見通しを述べている。

デジタルプラットフォームの確立

CPS をどう捉えるかの議論は別にして、今やIoT は社会に浸透する勢いである。オートメーション業界内には、依然としてIIoT への取り組み方を巡って足踏み状態の企業も少なくない。プラントや工場の生産工程・管理工程内にIoT を取込もうと取込まないとに関わらず、周辺社会ではIoT の活用が確実に進む。製造業が社会的な技術変革、技術融合の時代に取り残されないために、まずは、複数の製造拠点間、製造拠点と管理拠点間を結ぶデジタルプラットフォームを確立することを急がなければならない。