欧米オープン・オートメーション標準化3グループが連携

Submitted by Shin Kai on

 

欧州化学工業のユーザグループであるNAMUR(ナムーア)の年次総会が11月の9日、10日に、ドイツの地方都市バド・ノイエナール(Bad Neuenahr)で開催され、そこで、プロセス分野の次世代オートメーションの標準化に携わる3つのグループが、それぞれの規格開発で連携を保つことが発表された。この3つのグループとは、ドイツのインダストリ4.0 に準拠してプロセス制御の高度化を図るNOA (NAMUR Open Architecture)を推進中のNAMUR と、モジュール型プラントの実用化に向けてMTP (Module Type Package)の標準化を進めるサプライヤ主体のドイツ電気・電子工業連盟ZVEI、そしてオープングループ(The Open Group)のもとでエクソンモービル(ExxonMobil) が主導してオープン・オートメーションによる次世代生産システム構築に向けて標準化を急ぐOPA(Open Process Automation)グループの3団体である。

ARC の欧州アナリストは毎年この総会に参加して報告書をまとめている。欧米のプロセス業界が主導的なこのダイナミックな標準化の動きは、いずれ日本企業を巻き込むことになる。標準化作業が進展する状況を逐次見ることは、日本に居てはなかなか経験できないことのひとつである。日本では、国際標準化活動に携わる一部のエンジニアを除いて、業界標準というものはまず受け入れてこれに従って製品を設計し製造し保全するものだ、という認識が支配的である。これに対して、欧州や米国では、標準は自らがまず提唱し、作っていくものである。標準を主導するものこそが市場のリーダとなるからである。ARC が2016年2月に米フロリダ州オーランドで開催したインダストリフォーラムでは、上記3つの標準化の動向がそれぞれ別々の活動として当事者あるいは開発に携わる研究者から発表されていた。それが、2017年の11月には、3つの開発活動を連携させて、アーキテクチャとして1つの図に収まるような共同歩調で進めるところまで構想が進展したことになる。ここに至るまでのそれぞれの活動の大概を見ると次のようになる。

NAMUR の NOA

2016年に発表された同グループのオープン・オートメーション化の取組みNOA の特長は、制御系のコアとなるDCS 周りを変更することなく、制御系のピラミッド構造の上にデータ収集や分析に基づくプラントの監視・最適化を可能にする機能構造を付加するところにある。BASF やバイエルなどドイツ企業が主体の同グループは、この付加機能を、インダストリ4.0 標準をプロセスプラントに適用することで実現する。NAMUR 加盟の多くの企業は、すでに、固有の制御システムや、旧式DCS からウィンドウズ搭載などで標準化された新式のDCS への移行を完了させている。このため、情報化を推進するにあたって、プラントの安定操業を脅かすような制御コアの改変に取組む差し迫った必要がない。制御系を温存しながら、IoT ビッグデータ解析、AI などの最新技術をオープンプラットフォーム化してプラント運転に導入し、活用しやすくする仕組みを構想している。

NAMUR 総会では、BASF のミヒャエル・クラウス(Michael Krauss)氏がNOA の開発状況を報告した。NOA は遅延確定性と高可用性を備えたプロセス制御・生産システムの、標準化され安全が確保された相互運用性の要件に対応して、クラウド利用によるプラントベースあるいはエンタープライズ規模の監視及び最適化アプリケーションを活用することで、例えば設備資産パフォーマンス監視を実現可能にすることを目指している。

ZVEI/NAMUR の MPT

連続プロセス集約型のモジュラー型プラントのオートメーションの実現を目指す試みは、欧州ではインダストリ4.0 の取組みより古く、欧州化学産業の強化を目指したEU による投資額3,000万ユーロ規模のプロジェクトF3 Factory(flexible , fast and future production)に端を発する。このプロジェクトは、製品化までの時間短縮、新設工場プロジェクトのリスク低減、高フレキシブル生産(時間、場所)などの要件を求められる化学製造業が迅速性、柔軟性、コスト競争力を実現するために開始したもので、標準モジュールを組合せ、コンテナやアセンブリ・グリッドやドッキング・ステーションなどで製造装置間をシームレスに結合し生産ラインを構成する。生産初期には特殊ケミカルおよび医薬品分野をターゲットとし、欧州でパイロットプラントがいくつか運転を開始している。

このモジュラーオートメーションのパイロットプロジェクト事業では、ZVEI とNAMUR が協働し、モジュラーオートメーションの推奨方式としてNAMUR 標準NE148 が策定されている。その推奨標準には、分散型オートメーション:完全自動化モジュール構成、プラント規模の制御層で柔軟な統合を実現する、モジュールはベンダ非依存で統合可能なアーキテクチャを採用する、統合エンジニアリング向けのツール支援、ベンダ非依存の機能的で一貫したモジュール記述、などの要件が定められている。

一方、モジュラー型プラントの実現に向けたNAMUR/ZVEI タスクフォースが設立され、その基本構想は、プロセス制御システム(PCS)への統合時間(プロジェクト固有のエンジニアリング)をNAMUR MTP の導入によって80%以上削減すること、と定められている。このタスクフォースが担う開発作業は、ベンダ非依存のモジュール記述の特定であり、MPT の標準化であり、MPTs をエクスポート/インポートするエンジニアリングツールに関わっている。

NAMUR 総会では、ZVEI を代表して、シーメンス(Siemens)のヨルン・オプシンスキー(Jörn Oprzynski)氏がMPT 標準の状況を紹介した。MPT には少なくとも5つのサブ・パッケージが含まれる。すなわち、HMI、診断・保全、アラーム管理、ヒストリカルデータ、状態ベースのプロセス制御、である。各装置間のシームレスな統合を実現し、エンジニアリングを簡素化し、製品品質とコスト競争力を高めるためのモジュラー化のためのMPT パッケージ構成に関して、すでに数件のVDI/VDE/NAMUR 標準が発行され、2018年には追加の標準とIEC における国際標準化を目標としている。

OPA の オープン・アーキテクチャ

ベンダ依存型DCS を中心とする従来型のプロセス制御から、標準ベースでオープンなリアルタイムシステムへの転換を提唱するエクソンモービル(ExxonMobil)のオープン・アーキテクチャのビジョンとプロトタイプ開発、これと並行する標準化の取組みに関しては、このブログコーナーで度々ご紹介してきたとおりである。この活動は、エクソンモービル1社に留まらず、すでに多くのユーザ企業、オートメーションサプライヤ企業、IT企業、システムインテグレータを巻き込みながら、オープンシステムとあらゆる階層に適応する標準言語を通じて仮想化と階層フラット化を実現することを目指し、セキュアで相互運用可能な制御システムの構築を2020年末までに完成しようとしている。

基本的な構想としては、制御のコアとなる従来型DCS の解体につながることから、DCS 制御系を温存するNAMUR のNOA 構想のオープン化の取組みとは異なっている、と見られていた。とはいえ、モジュラー化の実現などアーキテクチャで通低する部分も多く、両者間で共通化できる領域は小さくない。NAMUR 総会では、エクソンモービルのダン・バーツジャック(Don Bartusiak)氏が、リアルタイム・コンピューティング・プラットフォームとリアルタイム・サービスバス、DCN(分散制御ノード)などからなる同社の参照アーキテクチャ、プロジェクトの進捗状況と今後のスケジュールを紹介した。

NAMUR、MTP、OPA の連携

以上のように、目的にもアプローチの手法にも異同のある3つの標準化活動が、連携することになった。BASF のミヒャエル・クラウス氏は、プロセスオートメーションの技術革新を推し進めるにあたってしばしば障害要因となるのは、プラットフォーム、インターフェース、あるいはデータモデルの欠如にある、と語る。これらは実は個々に、OPA、NOA、MPT がそれぞれの標準活動で取組んでいる課題と重なっている。3つの標準化活動には、それぞれ固有の目標があるが、部分的には重なってもいて、補完的でもある。標準は、標準開発の効率化の観点からしても可能な限り少ないに越したことはない。

そこで、クラウス氏によれば、3つのグループの意図としては今後、MPT とNOA をOPA の参照アーキテクチャ内に統合化することにより、既存のDCS やPLC や既存の計装を、オープンな新リアルタイム・サービスバスにつなげる。NOA はこれを標準のコンピューティング・プラットフォームとすることで、監視や最適化の機能を実現できるようになる、という。これらを統合化した新アーキテクチャには、DCS のリアルタイム・サービスバスへの接続性が新たに確保され、HMI、バッチ制御、アラーム管理などMPT とNOA が規定するデータモデルが組込まれ、リアルタイム・コンピューティング・プラットフォームによる制御あるいはインテリジェントなDCN を経由するフィールドの制御を実現することが含まれる。

実際のプロセス分野のフィールドにおける新システムの導入には時間を要し、旧型、新型のソリューションの混在が長く続くことが予想される。とはいえ今回、欧米の標準化グループ間で連携が実現したことにより、標準化活動そのものの効率が促進され、プロセスエンドユーザ企業がオープン化、標準化による技術革新の恩恵を受けられる日の到来が早まることを期待したい。