デジタル・アプリケーション・プラットフォームと人的資源

Submitted by Shin Kai on

 

昨年から今年にかけて、オートメーションサプライヤの各社のクラウド利用による産業用IoT デジタル・アプリケーション・プラットフォームの提案が出揃った感がある。サイバーセキュリティを確保しつつ、ユーザ企業の設備・装置が生成するデータをクラウドサービスに取り込んで、そこで高度分析等のデータ処理を施し、ダッシュボードでデータを見える化して顧客に戻す。装置類の遠隔監視や予防保全といったアプリケーションが先行して利用が拡大しているが、予防保全のデータ分析の精緻化や、プラントのプロセスそのもののばらつきを安定化させ、トレンドをよりよく理解し、製品品質を向上させるなど、要求の難度が一段と高まるにつれ、知識と経験豊かな人材の重要性が再びクローズアップされている。興味深いことに、モノとモノとをつなぐIIoT プラットフォームサービス間の差別化の最大の要因が、いまやこの人的資源に関わっているのである。

デジタル・アプリケーション・プラットフォームの提案で先行するGE のPredix やシーメンス(Siemens)のMindSphere は、現時点では、クラウドサービスへのつながりやすさを前面に訴求し、世界中で接続件数の増加を競っている。しかしいずれ、競争は、クラウドに上げたデータからどれほど有効な情報が引き出せるか、どれほどユーザ企業の運用の最適化に役立つかという競争に移行するはずである。

ハネウェルとUOP

ハネウェル・プロセス・ソリューションズ(HPS)は、プロセスプラント業界向けに包括的なプラットフォームHoneywell Connected Plant を提案している。サービス契約を締結した顧客のプラントの設備、プロセスループ、センサ、ERP/ヒストリアンなどのデータをプライベートクラウドSentience に吸い上げ、設備資産管理Uniformance  モデル、コグニティブ学習によるビッグデータ分析、基礎モデルUniSims シミュレータ等のツールを活用する。そしてここで最適化に関与するのが、同社の兄弟会社ハネウェルUOP によるコンサルティングである。ハネウェルUOP は石油・ガス業界における長年の技術開発とエンジニアリング、コンサルティングの実績・経験によってすでに高い評価を得ている。ハネウェルは、この専門家集団がデータにもとづいて最適化コンサルティングをサポートする仕組みをサービスプラットフォームの核として組込んでいる。

横河電機とKBC

横河電機が構築するデジタル・プラットフォームもある意味でこれと似ている。同社は昨年、英KBC を買収したが、KBC は石油・ガス産業の上流(開発生産)工程から下流(精製)工程までを対象に、操業の効率性向上や収益性改善を実現する世界でも屈指のコンサルティングサービス会社であり、操業の最適化、高度シミュレーション技術とこれに基づくコンサルティングサービスをグローバルに展開している。横河電機は、デジタル・オートメーションのアプリケーションプラットフォームを構築するに当たり、このKBC をプラットフォームの最上部に位置づけ、OT とIIoT を橋渡しする中核に据えた。同社が今年2月に米国のARC インダストリ・フォーラムで発表したCo-Pilot プログラムは、KBC が培ってきた精製所のプロセス最適化ノウハウを、クラウドを介して遠隔モニタリングと最適化コンサルティングを一体化して提供するサービスである。

人とAI

ハネウェルの場合も横河電機の場合も、IIoT プラットフォームサービスの核となり、差別化の要となるのが、豊富な専門知識と経験を兼ね備えた人材であり、そのコンサルティング能力である。豊富な各種データをもとに、経験と論理を用いて、現場のオペレータに対して的確なアドバイスが提供でき、それがオペレータの判断に十分な説得力を持つことが重要である。これらの能力と経験をそなえた人材はすでに年配者であることが多く、グローバルでも少人数に限られている。

これに対して、業界にはAI の学習能力の向上が有能なコンサルタントの専門知と経験知を吸収して代替することへの期待がある。とはいえ、AI の推論判断がブラックボックス化して、現場のオペレータに合理的かつ有効な説得力を持ちえなければ、オペレータがこれに従うはずもなく、最適化の判断の役には立たない。AI 開発がその現場の要求を満たすに至るまでは、デジタル・アプリケーションのサービスの中心の座を占めるのは、豊富な専門知と経験を兼ね備えた人であリ続ける。