サーバ仮想化の導入

Submitted by Shin Kai on

 

IIoT やビッグデータ活用は、プラントや工場でデータ主導型の運用効率の改善や、安定操業や、製品の品質向上を実現するための手段に過ぎないが、ではそれを導入するプロジェクトを立ち上げるに当たって現場のどこから手をつけるかという問いは重要である。この問いに対して、情報化技術で製造分野の市場開拓を図るIT系企業の提案の一つが、製造業の現場にデータ管理基盤を確立するための「仮想化」(virtualization)技術の導入である。

製造業の現場では、プロセス系であれディスクリート系であれ、多かれ少なかれサーバスプロール(server sprawl)の問題を抱えている。これは、近年コンピュータが低価格化し導入が容易になったことで、企業での部門単位でシステムが導入できるようになり、サーバ台数が無秩序に増加した状態をいう。

製造現場ではサーバの台数が増加しただけではない。データ処理能力の必要に応じて、あるいは現場の改善意欲に対応して導入されてきたサーバは、導入時期やアプリケーション次第で異なる種類のOS を搭載していたり、同じ種類のOS でもアプリケーションの制約から異なるバージョンを搭載していたりする。OS の更新期に更新できるシステムもあれば、現場のエンジニアがアプリケーションを独自に設計したような場合には、安定操業を重視して、あるいはシステムの不測の稼働停止を恐れてOS更新を見送ってきたシステムもある。従って当然ながら、サービスサポート期間を過ぎた後も長期間運用されているOS やアプリケーションが混在している。この結果、現場のサーバ管理は新旧ハードとソフトの両面で複雑化し、フラグメント化している。このよう現場のデータ処理環境下で、直ちにIIoT やビッグデータのデータストリームに対応可能なシステムを求めるのは容易ではない。その解法として提案されているのがサーバの仮想化である。

仮想化導入の効用

IT 業界のエンジニアや組込みソフトウエア開発者からすれば、何を今さらの話になるが、「仮想化」は、サーバなどのハードウエア資源(CPU、メモリ、ディスク)を、物理的構成にとらわれずに論理的に統合したり、分離した利することを可能にする技術であり、サーバ、ネットワーク、ストレージなどに適用が可能な技術である。サーバ仮想化に関しては、90年代後半にサーバのハードウエア性能が向上して各種業務ソフトウエアのプラットフォームとして活用が拡大するとともに、システム実行環境の安定性、効率性、運用管理性を高める技術として注目されるようになった。

サーバの仮想化は、1台の物理サーバのうえに仮想化ソフトを動作させることにより、その仮想化ソフト上に複数台のサーバがあるかのように論理的に分割し、それぞれの仮想サーバごとにOS とアプリケーションを動作させることができる。これにより、物理的にサーバの台数を減らすことができ、保守の工数・費用の削減や省電力化、省スペース化が図れる。

さらに、この仮想化ソフトを介して各仮想サーバに物理的なハードウエアの資源を割り当てることが可能なため、例えば負荷のピークが異なる複数のサーバを1台のサーバに集約することで、ハードの資源を効率的に活用できるようになる。また、余り忙しくないCPU の稼働率が低い複数のサーバを集約化することも可能になる。仮想化ソフト上で動作する仮想サーバは、サポートを終了したような旧式OS であっても、仮想化ソフトの対応OS であれば、最新のハードウエア上で動作する。

そして重要なことは、プラントや工場内に設置された各種サーバの仮想化を実現してサーバ管理の基盤を確立することで、サーバ間のネットワーク基盤およびサイバーセキュリティ対策の確立が容易になることである。

サーバ仮想化導入の事例

今年7月に開催したARC 東京フォーラムでは、ストラタステクノロジーが、このサーバ仮想化こそIIoT 時代の優れた戦略の端緒であり、第一歩であることを主張していた。同社は産業オートメーション領域でのエッジをデータの収集、分析、保管の技術基盤と見て、このエッジの仮想化とそれに続くネットワークおよびセキュリティの確立及びフォールトトレラント管理体制の整備がデータ保護の基盤を確立し、その基盤こそが、データ高度分析による意思決定などIIoT の次のステップへの展開を準備する、と述べた。

同社は、先行事例として、米国を代表する乳製品の協同組合デイリー・ファーマーズ・オブ・アメリカ(Dairy Farmers of America: DFA)の取組みを紹介した。この事例は、サーバの仮想化がそれに続くIIoT の高度データ活用の基盤となるという意味で、分かりやすい事例といえる。

DFA に加盟する全米約3,000件の酪農家は、現在43カ所の処理施設に牛乳を出荷している。この組織の成長に伴い、DFA は、設備投資を効率化し、多種多様な乳製品の生産に関わる業務を標準化し、最先端の技術を取り込んで農場から消費者の冷蔵庫に至るまでのサプライチェーンを的確に把握することを目指して3段階からなるプロジェクトを立ち上げた。第1段階は工場の近代化で、3年をかけて処理施設のネットワーク、コンピューティング、PLC の基盤を確立する。第2段階は処理施設内の分析環境の展開で、1年から5年をかけてデータ活用に基づくリアルタイムの意思決定を可能にする。そして第3段階は協同組合全体にわたって川上の農場から川下の冷蔵庫までのトラッキングを実現して優れたサプライチェーンを5年以降に実現するというものである。当然ながら、食品の安全性に高いハードルを強制する米国食品医薬品局(FDA)の諸規制を満たすことが前提となる。

その第1段階でDFA はストラタスの仮想エッジプラットフォームを採用した。この結果、処理施設ごとに平均9台あったサーバを仮想化し、1施設1~2台に集約した。400台近くあったサーバを60台程度まで集約化した計算になる。これとともに処理施設間のネットワークをイーサネットで整備した。

ストラタスによれば、DFA は現在、第2段階としてIBM の分析機能を導入してイーサネットで接続された処理施設の全域で、リアルタイムの意思決定のためのデータ活用に踏み込もうと計画中である。そしてその成果を踏まえて、第3段階の全サプライチェーンの再構成の段階を迎える予定であり、この最終段階に至ってこそ事業のデジタル化による真価が表れることになる。この最終のサプライチェーン全体のリエンジニアリングを通じて、DFA の乳製品処理施設は、酪農家の供給側と最終消費者の購買動向の変化のそれぞれの状況変化にリアルタイムベースで、かつ予知対応ベースで、正確に、素早く対応できる体制を目指す、という。