リアルデータの活用を軸とする日本の産業政策「Connected Industries」-東京イニシアティブ2017の発表会から

Submitted by Shin Kai on

 

経産省は2017年10月2日、都内に産官学の関係者約250名を集め、日本のIoTやAI の先端技術活用による産業政策「Connected Industries」 カンファレンスを開催した。ここで世耕弘成経済産業大臣が東京イ二シアティブ2017 を発表するとともに、産業界から8名の代表がそれぞれの立場から「Connected Industries」実現に向けた取組みを表明した。

「Connected Industries」は、政府が今春より提唱を開始した日本の産業の未来像を描く独自の産業政策であり、従来の縦割り産業構造を横断的に連結することで、(1)「自動走行・モビリティサービス」、(2)「ものづくり・ロボティクス」、(3)「バイオ・素材」、(4)「プラント・インフラ保安」、(5)「スマートライフ」の5つの重点取組み分野を明らかにしている。

「自動走行・モビリティサービス」分野では、自動走行・EVエネルギ管理、物流などモビリティサービスを含み、「ものづくり・ロボティクス」分野では、生産の全体最適化、日本の技術力・現場力を活かすスマートものづくり、「バイオ・素材」分野では、材料・素材・医療・創薬の革新やバイオエコノミーの拡大を図る。また「プラント・インフラ保安」分野では、IoT ドローンなどの活用による生産性や安全性の向上が、「スマートライフ」分野では、ライフデータサービス活用の拡大とそれによる家事負担の軽減、働き手の創出が目指されている。

構想のきっかけ

世耕大臣は、まず「Connected Industries」の構想に至った背景を説明。今年3月、ドイツのハノーバーで開催された展示会CeBIT 2017 にパートナー国として参加するのを前に、ドイツの産業政策Industrie 4.0 に日本はどのように呼応し、これを越えていけるかを経産省内で議論した。その中で、「ものづくりの現場に蓄積されている膨大なデータとIoT、AI を組み合わせることが日本の勝ち筋ではないか、という考えが出てきた」という。そこで、データを介して、人、機械、技術など様々なものがつながって、新たな付加価値の創出と社会課題の解決を目指す産業のあり方を「Connected Industries」と名付け、CeBIT 会場で発信した。「Connected Industries」の名付け親は、世耕氏本人であるという。

帰国後、5月から産業界の代表、有識者との懇談会を重ね、官民双方が取組むべき方向について集中的に議論した。この際のテーマは、重点分野の特定、協調領域の最大化、横断的課題への対応、の3点であったという。世耕氏は「日本企業は、得てして、国内市場で激しく競り合い、競争領域と協調領域の線引きが大変苦手である。しかし、協調すべきところは協調していかなければ、世界に伍して戦っていくことは困難である」という参加者の意見に傾聴した。これに加え、ベンチャー企業との懇談会も開催し、多様なメンバーと議論した積重ねを基に、今後の方向性を定めた「Connected Industries」東京イニシアティブ2017を策定したという。

このイニシアティブのなかでは、「重点分野を定めながら、政策資源を集中投入し、横断的な政策を推進することで、リアルデータを巡るグローバルな競争の中で日本の勝ち筋を実現していきたい」という意図が政策の骨格を形成している。

5つの重点分野の特定

世耕氏は日本の産業の強み、市場の成長性、社会的意味の大きさの観点から選ばれた5つの重点分野を個々にとりあげ、詳述した。

● 「自動走行・モビリティサービス」は、交通事故の削減、高齢者の移動支援に加え、国際競争力が求められている。今後は自動走行ビジネス検討会において、データ協調のあり方、AI・システムの開発、人材育成について検討を進める。さらに物流を含むモビリティサービスの将来像を議論し、実現に向けて取組む。

● 「ものづくり・ロボティクス」では、日本が強みを持つ代表的産業であると同時に、匠の技の伝承や人手不足の解消といった社会課題解決でも重要分野になる。高い技術力と臨機応変に対応可能な現場力を活かしたスマートものづくりに、多数の企業が各社各様の挑戦を開始している。ロボット革命イニシアティブ協議会では、データ形式の国際標準化、サイバーセキュリティ、デジタル人材育成など協調領域における企業間連携を促し、中小企業にも使いやすい共通基盤を整備していく。

● 「バイオ・素材」では、日本の技術・市場優位性を活かし、今後のグローバルな発展を期待する。バイオエコノミーの拡大や社会変革を実現する革新素材の創出を図るために、産業競争力懇談会、日本化学工業協会などで、協調領域におけるデータ連携の実用化支援を進める。

● 「プラント・インフラ保安」では、多くのプラント、インフラの老朽化と、保守・安全業務を担ってきたベテラン従業員の引退が重なり、重大事故のリスクが増大し、対応が急務となっている。IoT を活用した自主保安技術向上のための実証実験を通じて企業の取組みを促進する一方、IT 利用を前提とした規制制度改革なども進める。

● 「スマートライフ」では、少子高齢化が進むなかで、例えば、生活関連データを活用して、約100兆円市場とも試算されている家事をサービスに置き換えていくことができれば、経済的なインパクトが大きい分野である。今後、企業間連携によるサービスの具体化に加え、データ連携の実現、パーソナルデータの利活用に係るルール策定も進める。

横断的政策

政府はこれらの重点分野への取組みと並行して、横断的な政策を進行させる。リアルデータの共有・利活用領域では、重点分野でデータ共有を行う民間事業者の認定制度を創設し、税制などの支援を実施する。また、AI チップ研究開発支援に加えて、AI ベンチャー企業とリアルデータを大量に保有する中堅・大手企業によるシステム開発を支援する。ネットとリアルの両方に精通したIoT 人材の育成も、認定制度を通じて強化する。さらに、AI の中核的技術であるディープラーニング(深層学習)の修得も重要であり、CEATEC 展会場で設立発表が予定されている日本ディープラーニング協会によるAI 人材育成を支援していく。このほか、データ活用に向けた基盤整備(研究開発、人材育成、サイバーセキュリティ対策)、および国際展開・ベンチャーエコシステムの実現と地域・中小企業への支援強化も実施する計画である。

産業界の取組み表明

この発表を受けて、大臣懇談会に参加して同政策に助言してきた産業界の代表や有識者メンバーの中から8名が登壇し、それぞれの立場から、データの協調、大企業とベンチャーとの連携、標準化推進などを巡って同施策の実現に向けての取組みを発表した。登壇者は次の通り。

稲葉善治氏(ファナック会長兼CEO)、川崎秀一氏(沖電気工業会長、CIAJ 会長)、長榮周作氏(パナソニック会長、JEITA 会長)、西川徹氏(プリファード・ネットワークス社長兼CEO)、東原敏昭氏(日立製作所社長兼CEO)、牧野正幸氏(ワークスアプリケーションズCEO)、村井純氏(IoT 推進コンソーシアム会長、慶應義塾大学教授)、山西健一郎氏(三菱電機会長、経団連副会長)。

各社、団体による取組みのいくつかに関しては、10月3日から幕張メッセで開幕するCEATEC 展で具体的な発表が行われる予定である。