OPC UA とTSN の連携について

Submitted by Shin Kai on

 

OPC UA(オープン・プラットフォーム・コミュニケーションズ ユニファイド・アーキテクチャ)とTSN(タイム・センシティブ・ネットワーク)の連携開発が注目を集めている。いずれもまだ標準化の開発段階の技術であるが、すでに先週リリースされたARC Insight には「OPC UA TSN は産業用イーサネットに取って替わるか」と題する報告が出ている。とりわけインダストリ4.0、NOA(NAMUR オープン・アーキテクチャ)を推進する欧州では、この種の議論が活発化しているようで、時期尚早とばかりも言っていられない。

同報告はARC のアドバイザリサービス会員企業向けに公開されるもので、このブログでは詳細を紹介できない。ただし、概略としては、OPC UA TSN の開発が、製造業向けのリアルタイムでベンダに依存しないイーサネット通信プロトコルのための1標準として開発される見通しであること、ディスクリート産業の製造機械およびプロセス産業のプロセス機器の双方を対象にリアルタイムの機能性とデータ収集の周波数幅を備えること、OPC UA TSN の機械制御への実装までにまだ数年を要し、すでに普及している既存(ベンダ依存型)の各種イーサネットフィールドバスとの共存が長く続く見通しであること、などを指摘。さらに、これと異なる標準としてOMG(オブジェクト・マネジメント・グループ)のDDS(データ・ディストリビューション・スタンダード) との連携にも言及しつつ、オートメーションサプライヤ、機械製造メーカ、エンドユーザそれぞれに対してOPC UA TSN に準備対応するための推奨をまとめている。

注目開発技術の相互連携

7月に開催したARC東京フォーラムで基調講演を行ったARC リサーチ・ディレクタのハリー・フォーブス(Harry Forbes)は、オートメーション業界のトレンドとして、オープン・プロセス・オートメーション開発の最新動向を紹介する一方、これと並行して標準化開発が進む5つの先進技術動向を挙げて、インダストリ4.0、NOA、リアルタイムシステム仮想化とともに、このOPC UA とTSN を列挙した。そして彼が強調したのは、これらの先進技術の標準化がそれぞれ個別に開発されているのではなく、それぞれ影響を及ぼしながら進展していること-とりわけOPC UA はインダストリ4.0の参照アークテクチャモデルRAMI4.0に取り込まれ、NOA とも連携し、TSN とは開発で共同歩調をとっていること-であった。

OPC協議会によるOPC通信は、産業オートメーション分野やその他業界における、安全で信頼性あるデータ交換を目的とした相互運用を行うための標準規格である。プラットフォームから独立し、多くの製造ベンダのデバイス間で、シームレスな情報の流れを確保する。OPC UA は、いわば産業機械の共通言語としての機能を拡張すべく、当初のクライアント/サーバ・アークテクチャから機械とクラウド間、機械と機械間サービスで用いられるパブリッシュ&サブスクライブ・モデルにも対応しようとしている。この際、リアルタイム性を実現するためにTSN を用いる構想である。

他方、TSN は、IEEE802 が標準化を進める拡張版イーサネット規格である。もともと民生用オーディオビデオのデータ配信をサポートする団体として業界団体Avnue Alliance が設立され、IEEE がEthernet AVB (IEEE802.1 Audio/Video Bridging)を策定するのを支援した。そこから発展して、現在は産業用・自動車用途向けにEthernet AVB を拡張した新規格TSN の標準化の取組みを推進している。これまで、標準イーサネットの規格を拡張して産業用途に適用する流れが10数年あまり継続している。これらはオープン性と互換性を備える一方で、遅延性能を固定化できず、帯域幅も保証できないため、機械制御には不向きであった。これに対し、TSN はハード面で標準イーサネットに全く変更を加えない一方、1マイクロ秒以下の低遅延、同期性能の向上と、10ギガビット級の帯域幅を実現できる見通しである。TSN は、標準イーサネットのオープン性、互換性を保ちつつ周波数帯域の保証と遅延確定性を持つという特長によって、産業用制御への適用が検討されるようになっている。

以上からOPC UA とTSN の両方を併せると、真実ベンダ非依存型のリアルタイムで遅延確定性を備えたイーサネット標準通信の実現が期待できることになる。

市場が選択

同機性能を厳しく追求するディスクリート産業市場では、多くの異なるフィールドバスプロトコルが乱立し、Profinet、EtherNet/IP、Sercos、Powerlink、EtherCAT、CC-Link IE、Mechatrolink III などの多種グループが実装ベース拡張を競い合っている。この状況に対して、あらゆる機器を垂直軸、水平軸でつなごうとするIIoTやインダストリ4.0 のデータ通信要求を満たすには、様々な制約が予想される。とはいえ、大手ベンダがOPC UA TSN ベースのプロトコルの実装を開始しても、機器メーカの採用や既存の実装ベースが一変するとは考えられない。OPC UA TSN が、安全、堅牢性、最大ケーブル長、接続可能ドライブ数など現場の要求にさらされ、課題を解決してのちに、ようやく市場への浸透が始まることになるだろう。

これとは異なり、プロセス産業分野では、制御のコアとなるDCS やセンサ、アクチュエータのベンダ数は、ディスクリート市場のPLC その他のベンダ数よりはるかに少ない。またリアルタイム性に対する要求内容も両産業では異なり、プロセス産業の要求は、ノンストップ運転のための週7日1日24時間の可用性と大量のプロセスデータを収集・分析するための広帯域幅が要件となる。FieldComm Group の動きも気になるところだが、特定の産業用フィールドバスの優位性が確立されていない状況でもあり、プロセスプラントではOPC UA TSN の導入が広く関心を引くことになるだろう。欧州の化学ユーザ団体のNAMUR がこの採用に強い関心を示しているのもこのあらわれと思われる。