オープンソースのプロセスオートメーションに関するARC ワークショップの話題から

Submitted by Shin Kai on

 

ARC は先週の7月20日に東京で、ARC オープン・プロセス・オートメーション・ワークショップを開催した。米国のエクソンモービル(ExxonMobil)が中心となって現在進行中のプロセス制御の技術革新と標準化の動きに即して、その最新の情報を日本のプロセスコミュニティにお伝えする一方で、この活動への関心を喚起することを目的としていた。同領域の担当アナリストが7月に来日するのを機に、日本のEPC コントラクタ企業、ケミカル系のエンドユーザ企業に打診したところ、少なからぬ企業から関心を示していただけたので開催するに至った。当日は、エンドユーザ企業6社6名、EPC 企業5社11名の計17名の参加を得た。ワークショップの名に相応しく、発表者の説明の途中から参加者の質問が相次ぐ活発な進行となった。

ARC アナリストのハリー・フォーブス(Harry Forbes)は、「オープン・プロセス・オートメーションの最新状況」と題して、旧式DCSの大規模な更新を控えて、DCS とは別の新制御システム開発への転換を図るに至ったエクソンモービルの背景事情と目的、その構想システムの概要とアーキテクチャ、主要な開発及び標準化活動と工程表ー3トラックの同時進行、およびこれに何らか関連すると思われる5つの技術開発プログラム(Industrie 4.0、NAMUR NOA、OPC UA の機能拡張、TSN、リアルタイムシステム仮想化)を順に説明。最後にARC によるこの活動に関する現状での評価を行った。

構想システムのアーキテクチャに質問が集中

参加者からの質問は主として、エクソンモービルが構築しようとしているシステムアーキテクチャの構成に集中した。

●「機能開発の範囲が従来型DCS、PLC、高度プロセス制御(APC)、HMI からエンジニアリングツールにまで広範囲におよぶのに対し、安全計装システム(SIS)を開発対象から外したのはなぜか」

●「PLC はプラント内でDCS の制御とは独立した制御を行っていて、恐らくDCS とは異なるサプライヤが提供している。そのPLC の機能が開発対象に含まれているのはなぜか」

●「フィールド機器とのネットワークでワイヤレスが含まれない理由は何か」

●「DCN(分散制御ノード)はシングルループでI/O プロセシング、PID、ロジックソルバ、アプリケーション・ホスティングを含むというが、複数のI/O を制御するDCN のフィールド調整を誰がどう実現するか」

●「リモートI/O とDCN の関係について」

●「従来型コントローラ10-12台の制御を100-200台の分散型制御に転換すると仮定した場合、なぜ新方式は有利といえるか。コスト効率を求めながら実は初期導入のコストが従来型DCS の更新より高コストにならないか」

●「基幹となるリアルタイム・サービスバスの制御信号の遅延の問題について。誰がリアルタイム応答性を保証するのか」

●「セキュリティ問題にどう対応できるのか」

●「これまで主としてDCS ベンダが提供してきたミドルウエア、エンジニアリングツールを誰が提供するのか」

●「どこまでが固有の領域でどこからがオープンか」

さらに、「標準化を進めるオープン・グループのメンバーであっても、ウェブサイトで標準化活動グループの活動状況へのアクセスが自由にできないのはなぜか」、また「標準活動グループ内に欧米大手EPC が加わっていないのはなぜか」といった質問もあった。

ハリーはこの一つ一つに応えたが、中には宿題になったものもある。

ARC による現状評価

ハリーは最後に現状をベースとしたARC による評価を提示した。同プロジェクトの正の側面としては、同プログラムが受入れ可能な開発手法で多くの参加者を得て前進していること、時期的に産業オートメーション分野のR&D 投資の機運が高まっていること、この活動によって現在のDCS 技術の限界を認識するようになったエンドユーザが増加していること、などを挙げる。

これに対して負の側面は、同プログラムが確立すれば、既存のDCS サプライヤがこれまで築いてきたビジネスモデルを大きく破壊すること、プロトタイプ開発に標準採用しているFACE(Future Airborne Capability Environment)技術標準/ビジネス形態は本来、航空機開発向けに生み出された手法であり、プロセスオートメーション市場に適合するか不透明であること、リファレンスアーキテクチャを固める作業を行っている標準化グループのスケジュールが極めて不透明であること、また、その他にも多くの大型でこれに関連する開発プロジェクトが同時並行的に進行していて、正負両面でその影響が予測されること、などである。

ハリーは以上を踏まえて、同プログラムは目標とするスケジュール(概念実証モデルの完了が2017年4Q、OPA 標準方式第一版のリリースが2018年1Q、実装モデルの稼動開始が2020年4Q など)を逸脱遅延するようなリスクが極めて大きいこと、さらに、リアルタイム仮想化のような他のシステムソリューション開発がDCS ベンダによって進められ、同プログラムの足元をすくうリスクもあることを考慮せざるをえないこと、の2点を指摘した。

エクソンモービルが投じた一石は、波紋を世界に拡大しつつあり、プロセスサプライヤ、EPC コントラクタ、プロセスエンドユーザの誰もが、その進展に注目せざるを得ない。ARC としても、引続き情報のアップデートに務める所存である。