米国と欧州で異なるオープン・プロセス・オートメーション開発

Submitted by Shin Kai on

 

世界のプロセス業界において、この数年のうちに大きな議論を呼び、話題を提供しているのがオープン・プロセス・オートメーションの開発である。米国と欧州でそれぞれ進行しているこの開発の動きに関して、日本ではなかなか情報が得にくい。このメールが配信されるのとほぼ時を同じくしてARC 東京フォーラムが東京・両国で開幕するが、午前の基調講演では、ARC 在米アナリストでオープン・プロセス・オートメーション開発領域担当のリサーチ・ディレクタを務めるハリー・フォーブス(Harry Forbes)が、米国、欧州における開発の最新情報を紹介する予定である。

ハリーは都合2週間ほど日本に滞在し、この間、東京フォーラムに続いて7月20日には、プロセスユーザ企業とEPC エンジニアリング企業を対象にワークショップを開催する。このほか、計測制御関連の業界団体や学会、制御システムサプライヤ企業の訪問などを通じて、同分野の最新情報を日本のプロセス業界コミュニティにお伝えし、情報交流する計画である。この機会を通じて、世界のオープン化開発に触れていただければ幸いである。

米、欧で異なる開発アプローチ

さて、オープン・プロセス・オートメーション開発を巡る米国と欧州の取組みに関して、ほぼ共通の目的を掲げながら、その開発アプローチには際立った違いが見出される。

米国のエクソンモービルが現在、ロッキードマーチンをシステムインテグレータとして開発中のプロトタイプの機能範囲は広く、従来のDCS、PLC、高度プロセス制御(APC)からHMI やエンジニアリングツールにまで及ぶ。開発要件としては、現行の肥大化したDCS から転換し、より小規模なモジュラーシステムへと移行する、標準規格ベースの採用によりマルチベンダ体制を可能にする、などである。これにより、DCS は仮想化を多用する運用プラットフォームとシングルループ機能を果たすDCN(分散制御ノード)という異なる機能ブロックに解体されることになる。

この背景には、エクソンモービルが世界中に30年以上稼働し続ける数百システムの旧態DCS システムをダウンストリーム事業領域に抱えており、その更新が待ったなしの状況になりつつあるという事情がある。同社はこれを機に、将来にわたり同様の大規模で高コストの更新作業を繰り返さないための、従来型DCS に置き換わる新制御オートメーション商用システムを素早く完成させ、2021年にはプラント実装を開始したい考えである。しかし、業界筋では、技術的な困難の問題以上に、このスケジュールの維持が当初より疑問視されている。

これに対し、欧州でオープン化開発を進めるNAMUR は、BASF 、バイエルなどドイツの化学プロセスユーザ企業を中心とする欧州145社のグループである。2016年に発表された同グループのオープン化の取組みNAMUR Open Archtecture (NOA) の特徴は、制御系のコアとなるDCS 周りを変更することなく、制御系のピラミッド構造の上にデータ収集、分析に基づくプラントの監視・最適化を可能にする機能構造を付加するところにある。この付加機能は、ドイツの企業集団らしく、インダストリ4.0 標準をプロセスプラントに適用することで実現する。エクソンモービルと異なり、NAMUR 加盟の多くの企業は、すでに、固有の制御システムや、旧態DCS からウィンドウズ搭載などで標準化された新式のDCS への移行を完了させており、情報化推進のために、プラントの安定操業を脅かすような制御コアの改変に取組む差し迫った必要がない。その背景の違いが、米欧のオープン化の取組みの違いとなって反映しているといえる。

NAMUR の推奨方式

NAMUR はユーザ企業が主導する業界団体で、同種の団体は、米国にも日本にも見当たらない。それ自体、標準規格団体ではないが、技術開発面でユーザ企業が求める規格を推奨方式として策定し、公開している。2015年11月の総会では、スマートセンサ開発のロードマップとしてProcess Sensors 4.0 を公開した。これはすでに先行技術ロードマップとして発行していたProcess Sensors 2005-2015 (2006年発行)およびProcess Sensors 2015+ (2009年発行)の更新版として公開されたもので、CPS(サイバー・フィジカル・システム)、インダストリ4.0 の実現に向けたセンサの技術条件をまとめている。そこに含まれる主なスマート機能としては、統一プロトコルに基づいた接続性と通信機能、保守・運用機能、トレーサビリティと規制順守、継続的エンジニアリングをサポートする仮想記述、などがあり、またインターラクション機能としてプラグアンドプレイの簡単実装、自己診断機能、自己キャリブレーション、自動パラメータ設定などが規定されていて興味深い。NAMUR のNOA 展開は、これら長年にわたる技術検討の蓄積を踏まえたオープン化活動であることに留意する必要があるだろう。

米国、欧州ユーザ企業の共通点

さて、オープン化のアプローチではさまざまに異なる両者だが、共通しているのは、ユーザ企業であっても、必要とあらば、自らが開発の音頭を取ってステークホルダーを集め、推奨方式を確立して具体化していく姿勢である。これは、誰かサプライヤがいいものを作ってくれたら採用しようという発想とは根本的に異なる。翻って、このような活動を推進できる欧米の化学ユーザ企業には、これまで業界に先駆してきた歴史を持つ自負のようなものがあるといえるかもしれない。