クラウドベースのIoT プラットフォーム選考の要件

Submitted by Shin Kai on

 

製造業が製品の開発設計、生産実行からサービスに至るまでデジタル化を進め、産業用IoT (IIoT)やAI分析など新技術を取り込んで、競争力を高めようとする機運が盛り上がりを見せている。近年この分野の技術革新はIT の開発スピードに突き動かされるしかたで、めまぐるしいスピードで進行している。日本の製造業界でも、その開発成果を継続的に取り込む基盤としてのIoT プラットフォームの採用がディスクリート系で先行して始まっている。では現時点で、製造企業がIoT プラットフォームを選ぶ採用基準はどのようなものであろうか。

国内外でクラウドをベースとする産業用IoT プラットフォームを提唱している企業はいくつもあるが、先行しているのはGE のPredix とシーメンスのMindSphere であり、両社のアプローチには共通するところが少なくない。ARC はこのほど、シーメンスPLM ソフトウエアが主催するSiemens PLM Connection Japan 2017 に参加し、MindSphere に関して、基調講演者の一人であるシーメンス・デジタルファクトリー事業本部プロセス&ドライブ事業本部専務執行役員事業本部長の島田太郎氏の講演から学ぶところがあった。

MindSphere を活用するメリット

島田氏によれば、インダストリ4.0 の狙いは端的に、競争力の強化である。そのためにはイノベーションの実現こそが要件となるが、イノベーション遂行のためには、特定の知を深めるだけでは不足であり、持てる知をどこまでも深める方向と、他領域を探索してスコープを拡大する方向の異なる2つのベクトルのバランスが保たれていなければならない。さて、IoT の本質は何かといえば、標準品が専用品を置き換えるところにある。IoTは、つながる構造を実現する過程で、専有的で開発と実装に手間隙がかかる特殊品を標準規格品に置き換える流れを産み出している。

島田氏によれば、クラウドベースのオープンIoT オペレーションシステムであるMindSphere がそのユーザ企業に約束するメリットは、接続やサービス開始が簡単であること、プラットフォーム・アズ・ア・サービスとして、世界中で開発された豊富なアプリが使った分だけ課金される仕組みにより安価に提供されること、であり、さらに基本的に価値を生む源泉であるデータはあくまでユーザ企業の所有であることが保証されていることである。

MindSphere を事業のデジタル化に活用した先行事例のユースケースには、製造業のほかに、電力管理、風力発電、列車等モビリティ、ビル管理などが揃いつつある。日本の製造業においても、トヨタグループのジェイテクトや制御盤メーカのアイデンがMindSphere の採用を決定し、グローバルな競争力の獲得に向けた取り組みを開始している。島田氏は、日本の産業政策が「コネクテッド・インダストリー」を打ち出した根底にある製造業の人間中心の思想は、「改善力であり、現場力でもあって、その日本の改善魂にIoT が火をつけた」という表現を用いて、日本が製造業の競争力を維持する方向性を示した。

ジェイテクトの選択

さて、以上の話から、特にクラウドベースのオープンIoT プラッとフォームMindSphere を採用するメリットとして第1に注目されるのがつながりやすさである。製造業の現場では、95%以上がマルチベンダ環境の既設の設備をつなげることでIIoT を実現しようとしている。島田氏は、比ゆ的にセンサ・アクチュエータ、フィールド制御の領域を「0~10mの領域」と表現して、ここを顧客が上位へとつなぐことができれば、セキュアにクラウドに至る「10~1000m の領域」の接続性はすべてMindSphere に任せることができる、と語る。

ジェイテクトは、「同社が目指す人と設備が協調し、人の知恵が働く、人が主役のスマートファクトリの実現」のための課題解決のチェーンソリューションとしてMindSphere プラットフォームを選択したが、同社の顧客が大手グローバルユーザであれ、国内製造事業者であれ、マルチベンダ環境の「0~10m」のフィールド制御領域で生成される多種データが、簡単にクラウド上の分析アプリケーションなど「10~1000m の領域」につながることがサービス開始を容易にする第1の要件である。この接続性は、シーメンスから供給される専用IoT ゲートウェイIPC (産業用PC)を装置に組込んで統合する、あるいはジェイテクト製PLC のToyopuc-Plus にシーメンスが提供するソフトウエアとAPI を組込むことで、新旧生産設備の統合化を簡単に実現できる。

また接続性の延長として、大手グローバルユーザが多国籍に展開する製造施設内の分散的データを統合的に監視、管理するためのネットワークの構築が容易であることも重要な要件に含まれる。

第2の要件は、業界で有力かつ豊富な設計開発ツールや故障予知等の最新の専門分析ツールをクラウド上のアプリケーション利用を通じてデータに適用し、使った分だけ支払うシステムにより初期投資の負担を軽減し、安価なIoT 活用への手段が提供されていることである。ジェイテクトはシーメンスやサードパーティがクラウド上で開発提供するMindSphere アプリケーションを活用するだけでなく、自ら品質・保全・生産・人を見据えたMindSphere 上のアプリケーション開発も計画している。

製造業領域で、以上のIoT データ活用とグローバル展開の要件を満たすIoT プラットフォームを提供できる企業は、世界でも限られる。これらプラットフォームを日本的な改善力の中に取り込んで使いこなす企業が増えてくることが期待される。