iOS のIIoT 市場展開-アップルとGE の提携

Submitted by Shin Kai on

 

先週、産業用IoT(IIoT) のモバイル利用に関する大きなニュースが発表された。アップル(Apple)とGE の提携である。両社が提携して、GE が推進するクラウドベースの産業界向けIoT プラットフォームPredix(プレディックス)を通じて機能する各種アプリケーションをiPhone 及びiPad で利用可能にする、という内容である。この発表で重要なことは、Predix の産業用アプリケーションが、iOS 搭載モバイル端末で利用可能になる、ということに留まらず、両社が新たにiOS のためのPredix ソフトウエア開発キット(SDK)の提供を開始することによって、Apps アプリケーションソフトウエアの開発者に対して独自の産業分析用IoT アプリケーションを開発できるオープンな環境を整えた、ということである。このiOS のためのPredix SDK は、米国西海岸時間の10月26日からダウンロードが可能になる。

インターネットを活用したクラウドベースの各種IoT プラットフォームに共通する特長の1つは、オープンなアプリケーション開発プラットフォームを提供するところにある。多様な業界、業種、装置機械に対応して定常・非定常の状態監視やデータ分析の見える化、アラーム通報管理など様々なアプリケーションが開発され提供されることで、プラットフォームのユーザ企業の利便性が向上する。また、産業用IoT プラットフォームは、現場からのデータを適切に分析し見える化して、その情報が必要な適任者に対して、時と場所を選ばずアクセス可能とすることによって、迅速確実な意思決定を支援することを約束している。もはや制御室のオペレータだけが現場の分析データにアクセスする時代は過ぎた。準リアルタイムのデータのモバイル活用は経営層からフィールドエンジニアに至るまで拡大するが、モバイルはデータとクラウドの組合せであり、これは産業用IoT プラットフォームに本性的に備わる要件である。

GE Predix のiOS モバイル展開

GE は、航空機、製造業、ヘルスケア、エネルギ、鉄道などの各産業分野で、iPhone やiPad からPredix による予測データや分析を利用できるアプリケーションを社内向け・顧客向け両面で開発し、提供を開始する。これらのアプリケーションにより、産業分野のオペレータやエンジニアは、自分のiPhone やiPad から装置・機械の性能・稼働状態に関する洞察を得たり、可視化を行ったりできるようになる。例えば、風力発電設備向けのPredix アプリケーションの場合、風力タービンから得られるリアルタイムデータに基づく分析から故障予兆など潜在的問題をiPhone を通じて保守作業者に知らせ、遠隔の専門家チームと連携して検査や修理を実行し、あるいは関連データの収集を支援したりできるようになる。こうした産業用アプリケーションは、装置の運転に関わるデータと関係者間の情報ループを早期に閉じることで、早期の意思決定を促進し、コスト節約や予期せぬ稼働停止トラブルを最小化するのに貢献する。

GE は実は数年前から、自社内のフィールドエンジニア向けにiOS モバイル端末の活用を展開していて、すでにAPP Store 上でもGE APM Cases (アセット・パフォーマンス管理導入事例)アプリを提供している。同アプリは、機械の信頼性や可用性を高め、保守費用の削減と操業時のリスク管理を支援することを目的としているが、今後、このようなアプリ提供で業種、機能別対応など広範な拡大展開が見込まれる。

iOS、macOS の業務市場展開に勢い

今回の発表ではまた、GE がiPhone とiPad を同社のモバイルデバイス標準とする一方で、全世界で33万人を超える従業員が業務に使用するコンピュータの選択として、Mac を推奨する方針を明らかにしている。これとともに、アップルは同社の顧客とアプリケーション開発者に対して、IoT 分析プラットフォームとしてGE のPredix を推奨していく、という。

このところ、iOS、macOS の業務市場拡大の話題が増加する傾向にあり、このことに、日本のオートメーション業界もいま少し留意する必要があるだろう。昨年2月のARC オーランドフォーラムの会期中にハネウェル・プロセス・ソリューションズ(Honeywell Process Solutions)は、プロセスプラントの管理者向けにリアルタイムのプラントの稼働状況データと分析情報を提供するモバイルアプリHoneywell Pulse を、ハネウェルのIIoT プラットフォームの1アプリケーションとして発表した。同アプリが提供する機能には、優先度に応じてカスタマイズされたプロアクティブでタイムリーな警報通知、既存のハネウェル・ダイナモ(DynAMo)警報管理ソフトウエアや、ユニフォーマンス(Uniformance)プロセス履歴データベース(PHD)をはじめOPC 準拠のヒストリアンなど複数のデータソースからの警報通知、会話スレッドを用いてのリアルタイムの問題解決や見極め、警報状況の特定、重要アラームやイベントの転送・共有・受信による状況把握力の向上などが含まれる。このアプリは加入者契約に基づき、iOS 版から市場に導入された。

IBM はすでに2014年からアップルとの提携を開始し、IBM のビッグデータと分析機能をiPhone、iPad にもたらす業務アプリケーション提供を勧めている。モバイル専用に構築されたIBM MobileFirst Platform for iOS アプリは、企業向けモバイルソリューションとして、小売、ヘルスケア、金融・銀行、運輸・旅行、航空、通信、行政、保険などそれぞれの業界の課題や機会をターゲットとして、エンドツーエンドの分析、ワークフロークラウドストレージから、企業が保有する全デバイスの管理・セキュリティに至るまで、エンタープライズレベルのサービスを提供している。また同時に世界規模でIBM 社内でのmacOS 端末、iOS 端末利用が促進されている。

シスコ(Cisco)は2015年にアップルと提携した。これにより、シスコネットワークはiOS 端末及びアプリケーションに最適化され、またiPhone がシスコのエンタープライズ環境に統合されて、Spark、Telepresence、WebEx といった事業所内の横断的なコラボレーションツールを用いてiPhone、iPad 上で独自のコラボレーションが実現できるようになっている。

またSAP も2016年にアップルとの提携を発表した。iPhone、iPad 向けのネイティブアプリケーションとSAP HANA プラットフォームの機能性を組み合わせ、法人顧客を対象に業務取引のモバイル展開を開始。また250万人以上といわれるSAP デベロッパ向け開発ツールとしてiOS 専用のSAP HANA Cloud Platform SDK の提供に関しても発表している。このほか、ビジネスコンサルティング大手デロイト(Deloitte)も同年、アップルと提携して、アップル製のハード、ソフト、サービスの活用による顧客企業の業務の効率化に関するコンサルティング・サービスEnterpriseNext を立上げ、約5,000人のコンサルタントがこれに従事する体制を整えた。