IO-Link コミュニティジャパンが始動-安価とIIoT エッジ情報管理を訴求

Submitted by Shin Kai on

 

日本でこのほど、IO-Link の普及促進を図るIO-Link コミュニティジャパンの活動が20社を集めて始動した。工場やプラント内の多点数のセンサ、アクチュエータとの通信には、従来から主としてオン、オフの単純な信号のやり取りに、例えば自動車の生産ラインであればAS-i通信、また石油精製プラントや化学プラントではアナログ4-20mA のHART 通信などが用いられてきた。この領域は、情報技術系ではエッジ部にあたり、ここ数年の間に産業用IoT (IIoT)のデータ活用で大きく注目されるようになった。生産現場からIO-Link に対する注目度が高まってきた理由は、まさにこのデジタル通信規格がIIoT に重要な役割を果たすエッジ部の通信方式として必要な要件と機能を備えているからである。

IO-Link 普及拡大の要件

設立の発表会で、同コミュニティリーダーとなる元吉伸一氏は、IO-Link が多点数のセンサ、アクチュエータの通信規格として必須条件となる安価さ、に加え、現場でどんな機器が使われているかに関して機器のベンダ名、モデル番号、シリアル番号など各種パラメータ情報の収集と管理が可能となることの有益さを強調した。IO-Link は、コントローラや各種フィールドバスのリモートI/O とセンサ、アクチュエータ間のインターフェース規格である。対応機器の開発には、まずドイツのPNO(プロフィバス協会)に加盟し、その内部の1委員会組織であるドイツIO-Link コンソーシアムに加入する手続きが必要となるが、そこで4社が保有する特許とロゴを無償で使用する権利が与えられ、技術仕様書の閲覧も無償で可能となるため、開発コスト的に有利な仕組みとなっている。また、提供されるセルフテストツールを用いて自己認証による認証試験が可能となっていることも、コスト面で有利である。

他方、ユーザ側からすれば、既存の標準3線ケーブル・コネクタを継続使用しながら既設のセンサ、アクチュエータと双方向で1対1のデジタル通信ができるようになり、デバイス情報を監視・設定できるため、対投資効果面で有利である。正確なデジタルデータの通信や省配線に加え、断線など自己診断機能、予防保全機能、リモートパラメータ設定、パラメータの自動ダウンロード機能による容易な機器交換の実現などのメリットがある。また、上位のCC-Link やDeviceNet、Profibus などのフィールドバスおよび各種産業用Ethernet とつながるインターフェースもすでに市場で販売されている。

IIoT、インダストリ4.0が追い風

このIO-Link 規格は独シーメンスが開発しFA 業界向けに2005年から市場に導入されながら、当初10年間はほぼ様子見の足踏み状態が続いた。機器サプライヤにすれば、エッジ部での新たな通信規格に対する先行投資はリスクが大きく、普及するかどうかを見極めるのには時間を要した。そこにIIoT 、特にドイツ・インダストリ4.0 の話題性が追い風となった。ARC の欧州アナリストたちは数年来、この規格の普及状況を追い続けてきたが、ドイツのハノーバーメッセ、SPS/IPC/Drives、工作機械・産業機械などの展示会場で採用が目立って増えてきたと報告が出始めたのは2016年に入ってからのことである。IO-Link 機器の累計出荷のノード数は、2016年末時点で530万台に達しており、2017年3月時点で独IO-Link コミュニティには145社が参加し、3,770種の対応機器をすでに販売しているという。またこの中には、三菱電機、オムロン、パナソニック、キーエンス、SMC、ルネサスエレクトロニクス、エムシステム、CKD、アズビル、アマダ、川崎重工など日本企業が含まれる。技術的には現在、OPC-UA との連携が検討されており、また4月のハノーバーメッセではIO-Link Safety rev.1.0 がリリースされ、その製品化が2018年にも見込まれている、という。

IO-Link 体験コース

ドイツに次いで2拠点目となる日本のIO-Link コミュニティ設立の発表会は、早稲田大学喜久井町キャンパスで行われた。コミュニティ設立の発表と合せて、同大理工学研究所の産業用オープンネットワーク・ラボラトリ(IONL、代表:天野嘉春教授)が、2011年から実施しているフィールド通信技術セミナーのFoundationフィールドバス(FF)の教育プログラムに加え、6月からIO-Link 体験コースを年10回程度の予定で開始することを発表したからである。教育・体験面でのサポート体制がこれで整うことになる。これとともに、同コミュニティでは、開発製品を接続して相互運用性を確認するプラグフェストの開催も活動の視野に入れている。

IO-Link はFA 分野、特に自動車製造業、産業機械分野から導入が始まる見通しだが、プロセス産業分野でも高機能素材等の下流工程や、FA/PA ハイブリッド領域となる食品・飲料分野などから採用が進むと見込まれる。IIoT が目指す製造業の作業効率向上、部品・作業の標準化、予知保全、現場装置・機器類のメンテナンス性向上などの基礎となる、センサ・アクチュエータ通信のデジタル化の普及・前進に注目したい。