IIoT 時代の工業会委員会活動と情報共有

Submitted by Shin Kai on

 

日本電気計測器工業会(JEMIMA)が6月に東京で平成28年度の委員会活動成果報告会を開催し、これを取材した。第12回となる同報告会では、約120人が参加して、23の委員会の中から13の委員会が昨年度の成果報告を行った。工業会の委員会活動は、参加企業の個別性、特殊性をこえて、「基礎的・共通的」課題に取組むことを原則としている。ニュース性には乏しく地味な活動が主体となるが、工業会の中でその成果を蓄積し、会員間でこの情報と知見を共有することは、極めて重要かつ有益となりうる。

業界を取り巻く変化は近年、ますますグローバル化しつつあり、1社で情報収集、検討、対策を実施できる範囲を超えることが増えている。ARC が工業会の組織参画等を推奨している1例が、サイバーセキュリティ対策である。どの同業企業がどのような対策を施してどのような成果を挙げているか、というよな情報は、広く公開すれば却ってサイバー攻撃の標的にされかねない。そのため、もし有効なサイバーセキュリティ対策がどこかで実現していたとしても、その情報の共有は極めて限られているのが現状である。このような共有化の難しい問題も、工業会の会合等で同業他社のサイバー担当者との人的情報交流を通じて、入手できる可能性がある。

IIoT とJEMIMA

さて、ビッグデータや高度分析機能、インターネット利用の設備の遠隔監視・制御、エッジコンピューティングなどIIoT 時代の進展が「計測と制御」を事業の中核とするJEMIMA の各社の事業環境と技術動向にどのような影響を及ぼし、会員企業がどのような方向付けを見出していくかを探ることは、もはや喫緊の課題に思われる。JEMIMA は昨年度、「IoT イノベーション推進委員会」を発足させ、従来の製品分類主体の委員会構造に縛られない組織横断的な会員を募って、活動を本格化させようとしている。また、グローバルな変化への対応力の強化を図り、IEC/TC65 国内委員会とJEMIMA 委員会との連携強化を軸に国際標準化推進活動の強化を継続している。さらに、委員会活動を通じて工業会に蓄積されたノウハウと情報をベースに、会員個別企業の個別案件に役立てるためのコンシェルジュ機能を事務局が中心になって整備しようとしている。

委員会活動の現況

この一方で、やはり基礎的・共通的な委員会活動の成果の積み上げが注目される。「輸出管理委員会」は31社33名で構成。トランプ政権の発足とTPP、イギリスのEU 離脱、北朝鮮問題など流動的な輸出環境に対応すべく、輸出管理法改正動向の把握を通じて、会員企業の関連法規等の周知と順守徹底を図る一方、会員企業の輸出管理業務の支援を重点活動としている。具体的な活動には、安全保障貿易管理説明会の実施や研修会・勉強会の開催、ハンドキャリー手続きマニュアルなどガイダンス出版物の発行などが含まれる。

「知的財産権委員会」は、会員企業の知在戦略の立案・実行を支援するための情報提供と交流を目的としており、知的財産マネジメント部門(親委員会)に21社が、知的財産実務部門に7社が参画している。昨年度の活動では、特許庁との意見交換会を実施し、審査官に対して直接、意見や要望を明らかにする場を設けるとともに、IoT 関連技術に関する意見交換を行った。また知財契約実務ケーススタディをテーマに、大学教授を招いて講演会開催や東京税関を訪問して水際対策の現状とポイントの把握に努めた。今年度は、他工業会の知財関連部門との交流等を課題とする。

製品環境規制への対応を主眼とする「環境グリーン委員会」は、23社28名規模で幹事会のほか、欧州規制WG、中国規制WG、規制adhocWG と欧州駐在員の活動からなる。海外の電機電子機器団体との交流を拡大し、各国意思決定機関へのロビー活動を展開し、製品対象の環境規制情報の早期入手と適切なタイミングでの会員・関連業界への情報提供を活動の骨子としている。昨年度は、EU 域内の業界団体EPPA 来日を機に情報交換会を実施し、JEMIMA 単独では入手が困難な欧州委員会とコンサルタントの動向やウクライナの環境規制などの情報を得た。また中国に関しては、経産省を介してJEITA/JETRO 北京からの情報収集、翻訳資料の提供を受けた。欧州では、RoHS2 指令に関するロビー活動を通じて会員企業の意思反映に努めた。また環境省・経産省に水俣条約国内法ガイドラインの資料作りやテキスト作成業務に携わった。

「エネルギー・低炭素政策委員会」は、低炭素社会を目指したエネルギー政策に関する世界の動向を調査し、会員企業の国内及びグローバル事業展開に資するとともに、その活動をサポートする国際ルール作りと仕組みの構築を目的とする。調査および情報共有を業務とする規制・国際標準対応WG をアンテナ役に、IEC 対応(TC65 国内委員会連携)を業務とするエネルギー計測・制御WG と、同じくIEC 対応のスマートグリッドWG で構成する。エネルギー効率化のテーマは、創エネ・蓄エネ・未利用エネ活用や、エネルギーバリューチェーン全体での最適化に軸足を移しているという現状認識の下に、工場だけでなく、社会のエネルギーバリューチェーンを対象とした調査と情報共有が課題となっている。

変化をテーマに販売店対象にセミナー

このほか、注目される活動としては「電子測定器委員会」の報告があった。同委員会は電子測定技術の向上や標準・規格の調査を担い、電子測定器産業の発展に貢献することを基本方針として12社13名で構成する。昨年度は、「計測器産業を取り巻く変化と新たな進化の可能性について」と題して計測機器販売店を対象とする実務責任者会議セミナーを開催した。同セミナーでは、IoT 時代へと変遷する市場においては計測器メーカと計測代理店のビジネスも変化することを視野に、製品のデジタル化・IoT化、さらにサービス化がどのようにビジネスの仕組みを変え、ビジネスの価値が「モノ」から「サービス」重視に変わってきているか、に関して提言を含めて広く解説した、という。委員会メンバーが資料を作成し、議論した同内容は非公開ながら、代理店と一体となってIoT を巡る真剣な検討が進められていることをうかがわせ、興味深い取り組みと感じられた。

このような委員会活動が集積され、情報や知見が共有されることによって、参加委員の知見が磨かれ、計測器工業会は強靭化され、翻って個々の参加企業の競争力につながっていくだろう。時代の変化が激しい現代にこそ注目すべき、不可欠の活動ではないだろうか。