エッジクロス・コンソーシアムの設立-協調領域の確立に向けて

Submitted by Shin Kai on

 

ファクトリオートメーション(FA)のエッジ領域においてIoT データ連携のプラットフォームを確立することで、日本のモノづくりの現場力の強みを世界的な競合力形成の基盤として活用することを目指して、このほどEdgecross (エッジクロス)コンソーシアムが設立される運びとなった。この設立の記者発表会が2017年11月6日に東京都内で開催され、ARC もこれに参加したので、概要をご報告したい。

発表会場で登壇したのはアドバンテック、オムロン、NEC、日本IBM、日本オラクル、三菱電機の発起会社6社の代表と顧問を務める東京大学名誉教授の木村文彦氏。木村氏による同コンソーシアム設立の趣旨説明には、10月に経産省が発表したConnected Industires 東京イニシアティブ2017における産業政策の基本要請が色濃く反映していた。すなわち、IoT プラットフォーム展開で攻勢をかける海外勢に対抗して、「日本の製造業の強味である現場力を軸に、競合領域のほかに協調可能な領域を設けてそこで協力・協働体制を作ることが不可欠」「戦略的な協調を進めていくことが重要」といった行政側が提示した指針に対して、このコンソーシアムの設立は、業界側からの具体的なリアクションとして理解することができる。いわば、企業枠を超えた協調領域の設定である。

エッジ領域の課題とプラットフォーム

IoT のデータを活用して生産現場を中心としたバリューチェーンを最適化する場合、エッジコンピューティングは2つの重要な役割を担う。1つは、FA 生産現場からのデータをクラウド・ITシステムに上げる際に、そのデータをエッジ領域で一次処理することにより、通信量の低減やセキュリティの確保が容易になる。もう1つは、生産現場のリアルタイム性が重要なアプリケーションとなる場合で、クラウド利用ではデータをクラウドにあげて処理結果を現場に戻すまでの遅延が回避できないのに対して、エッジコンピューティングは生産現場に近い場所でリアルタイム応答性を重視したデータの管理・処理・フィードバックを実現できる。

しかしその一方で、FA の生産現場には多様なメーカの装置・設備が混在して稼働しているのが現状で、それらの接続方式や通信プロトコル、データ記述方式が複雑で、データ連携の障害要素が多数存在している。また、生産現場の膨大なデータを有効活用するためには、バリューチェーンの業務プロセスごとにデータを適切に整理してITシステムに渡す必要がある。すなわち、データを整理し個々のデータにラベリング(抽象化)してIT システムに渡す必要が生じる。

これらの課題に対する解が、エッジ領域で、データ連携を容易にするプラットフォームの確立である。プラットフォームがデータハブとなり、多様な通信プロトコルやインターフェースなど技術要素の違いを吸収することで、IoT システムが構造的にシンプルになり、データ連携が容易になる可能性がある。さらに、プラットフォームでIoT 化のためのデータを一元管理することで、業務プロセスごとに必要なデータの抽出を容易にする可能性がある。

コンソーシアムの主な活動計画

Edgecross コンソーシアムはこの、FA 製造現場とIT システムを協調させるオープンなエッジコンピューティング領域のソフトウエアプラットフォーム「Edgecross」の仕様策定と普及促進を実施する組織として構成される。コンソーシアムの発起会社6社は、コンソーシアムの設立後は幹事会(ボード会員)としてこの活動をリードする。またこのコンソーシアムに参加する会員企業は協調的にこのプラットフォームの構築と普及促進に参画することになる。

コンソーシアムの主な活動項目には、「Edgecross」の普及促進と販売、同仕様策定、同対応製品の認証(コンフォーマンステスト)、マーケットプレイス運営等による会員各社の販売支援、テクニカル部会・マーケティング部会等の企業・産業の枠を超えた協力と協働の場の提供、さらに、学術機関や関係団体との連携を計画する。グローバルな活動も視野に入れて、製造業のみならず他産業への適用拡大も目指す、という。

活動のスケジュールとしては、2017年11月29日のシステムコントロールフェア開催出展に合せて同日コンソーシアムを発足し、2018年1月のスマート工場エキスポに出展、2018年春にマーケットプレイスを開設してEdgecross の販売開始を予定している。

Edgecross 構想の主な特長

開発を目指すプラットフォームの特長としては次の6点が挙げられる。

● リアルタイム診断とフィードバック

生産現場に近い場所でデータ分析・診断を実施する。これにより、生産現場へのリアルタイムなフィードバックを実現する。

● 生産現場をモデル化

生産現場の膨大なデータを階層化、抽象化してデータモデル管理ができる。このため、人とアプリケーションとデータ活用が容易になる。

● 多種多様なアプリケーションをエッジ領域で活用

Edgecross インターフェースを介してIT のアプリケーションをFA 用途に開発・適用することが容易になる。ユーザは、設備の稼働監視、予知保全、データ分析といった豊富なエッジアプリケーションのラインアップから用途に応じた選択が可能になる。さらにIT システムとの連携無しにエッジ領域で完結したシステム構築を実現できる。

● 生産現場のあらゆるデータを収集

データコレクタの開発・活用により、ベンダやネットワークを問わず、加工機、搬送機、充填機、包装機、実装機など各設備、装置からデータを収集可能である。

● FA とIT システムのシームレス連携

ゲートウェイ通信によるクラウドを含めたIT システムとのシームレスなデータ連携により、サプライチェーン、エンジニアリングチェーンの最適化を実現する。

● 産業用PC 上で動作

Edgecrossプラットフォームは様々なメーカの産業用PCに搭載可能とし、ユーザの選択を可能にする。

Edgecross 対応エッジアプリケーションの開発仕様

あらゆる生産現場のデータを活用し、分析・診断を行うための付加価値の高いエッジアプリケーション開発を容易にするための仕様は、次の通り。

● エッジアプリケーションとプラットフォーム間のインターフェースについては、広く普及しているインターフェースをサポートすることで、エッジアプリケーションのEdgecross 対応を容易にする。

● プラットフォームとIT システム間にはゲートウェイ通信を活用することで、クラウドを含めたIT システムとのシームレスなデータ連携を容易にする。

● プラットフォームに備わるリアルタイムデータ処理機能を活用することで、リアルタイムな診断を行うアプリケーション開発が容易になる。

● プラットフォームに備わるデータモデル管理機能を活用することで、アプリケーションによるデータ活用が容易になる。

● プラットフォームとFA 生産現場間では、設備や装置の多様性を吸収するデータコレクタを活用することで、既存の設備・装置のデータ収集機能の開発が不要になる。

● コンソーシアムが開発キット、技術サポートを会員企業に提供することで、開発を促進支援する。

グループ会員構成

コンソーシアムの会員には、ボード、エグゼクティブ、レギュラー、レジスタード、アドバイザの各区分を設ける。11月2日時点での発起会社6社を含む全51社の賛同企業は、以下の通り。

ILC、アドバンテック、アマゾンウェブサービスジャパン、EPLAN ソフトウエア&サービス、インターフェース、インテル、ヴイエムウェア、ウイングアーク1st、ウインドリバー、NSD、MCOR、オムロン、キヤノンIT ソリューションズ、KSKアナリティクス、コンテック、CDS、シーメンス、JT エンジニアリング、シチズンマシナリー、シムックス、シュナイダーエレクトリック、図研エルミック、セゾン情報システムズ、ソフトサービス、ダイセック、ダッソー・システムズ、都築電気、DMG森精機、電通国際情報サービス、東芝電子エンジニアリング、トレンドマイクロ、NEC、日本IBM、日本オラクル、日本システムウェア、日本ティブコソフトウェア、日本ヒューレット・パッカード、日本マイクロソフト、ネットワンシステムズ、バイナス、パナソニックデバイスSUNX、PFU、富士ソフト、富士通、ベッコフオートメーションポートウェルジャパン、マカフィー、三菱電機、ヤマザキマザック、ラティス・テクノロジー、ルネサスエレクトロニクス。

日本のオートメーションおよびIT 企業が、日本発のものづくりのプラットフォームを企業枠を越えた協調領域の作業として確立し、国際的な競合力の源泉とできるかどうか、今後の展開に注目したい。