エッジコンピューティングの展開

Submitted by Shin Kai on

 

Japan IT Week 春のIoT/M2M 展、組込みシステム開発技術(ESEC)展が5月の10日から3日間、東京ビッグサイトで開催された。IoT/M2M 展は今年が第6回、ESEC は第20回で、ここ数年は、展示フロアで産業用IoT の開発の進展と実利用の事例の拡大状況を聞くのを楽しみにしている。今回、ユーザ企業側から関心が高まっているエッジコンピューティングの進捗状況に注目した。

展示会場では、欧米の産業用IoT 展とは異なり、ドイツ勢が主導するインダストリ4.0 リファレンスモデルRAMI4.0 推奨の国際規格に完全準拠、とか、米主導のインダストリアル・インターネット・コンソーシアム(IIC)リファレンスアーキテクチャIIRA 準拠、といった標準方式を押し出す出展者は今年も見当たらない。むしろ、同展のこれまでの継続的展開として、(1)M2M 機器・ソリューションを拡張展開してIIoT の装置事業からスマートファクトリ向けに提案を拡大 (安川情報システム、NECなど)、(2)海外IIoT 先行企業のソリューションを日本市場に移植 (日本システムウエア、テリットなど)、という流れだ。さらに、(3)昨年から今年にかけて大手電機メーカが揃ってIIoT プラットフォームを発表したこともあり(日立のLumada、東芝のSpineX、三菱のFA-IT オープン・プラットフォーム)、そのブランド浸透に向けたソリューション拡張とプロモーションという流れも加わった。

パターンマッチング

さて、エッジコンピューティングでは、三菱電機とインテルが共同で、振動解析に機械学習を取り込んで設備を監視するソリューションを出展して注目された。まずポンプやモータ機器の正常稼働状態時の振動データを収集し、データセンタで航空機エンジン解析レベルのパワフルな解析エンジンを用いてこれを解析するとともに、正常状態とデータの相関を学習し、モデルを生成する。そのモデルデータをもとに、工場内の駆動装置の近傍に配置したエッジコントローラ部で、リアルタイムの振動センシングデータに対して周波数帯ごとに細分化してパターンマッチングを実施する。これにより、高精度に振動の異常を検知・通報して予知保全を可能にし、ダウンタイムの低減に役立てる、という仕組みである。

通常はエッジコントローラ部でパターン情報とのマッチングを実施することにより、装置類の運用データを工場外に持ち出す必要がない。ただし、エッジコントローラ部がパターンマッチングで未知のデータに遭遇した場合には、そのデータをデータセンタに送り、解析支援を受けることができる仕組みだ。両社は、これにより、素早い自律制御にもとづくダウンタイムの低減とクラウドへの通信量の大幅抑制を期待する。

クラウド利用からエッジ分析まで

安川情報システムでは、IoT/M2M 技術を用いて収集した機器の稼働情報を管理するIoT プラットフォームとしてMMCloud サービスを商用化している。遠隔稼働監視では、タツノがガソリン計量機、在庫管理用油面計を対象に、TOWA が半導体後工程製造装置で、またリンナイが業務用給湯器ですでにこのサービス活用を開始している。さらに、前川製作所は同社の産業用冷凍機で故障予知の分析と通知を実現するために、安川情報システムのデータ収集通信機器、MMCloud とビッグデータ解析・AI 学習機能を備えたMMPredict サービスを活用している。MMPredict の場合も三菱・インテルの構成と同様で、まず装置毎の正常稼働状態におけるセンサデータの相関を機械学習してモデル化し、そのモデルからの乖離度を算出することにより、高精度な故障予測を可能にしている。これまで故障を予防するために早めの消耗品交換を実施していたが、その必要がなくなり、保守コストの低減と、推定異常箇所の把握による効率的な対策が可能になったことが導入効果として報告されている。

MMPredict は、工場・装置の現場での処理を一次分析、データセンタ処理を二次分析と区別し、展示会場では、モデルデータを組込んだコンパクトサイズのエッジ・デバイス・コントローラを設置して一次分析としてのエッジコンピューティングをデモしていた。

エッジ分析を差別化要因に

このほか、Toami (トアミ)の製品名で米ThingWorx のIoT を日本に先行導入してきたシステムインテグレータの日本システムウエア(NSW)では、各社のIoT 事業化の隆盛とともに、これまでの先行の優位性はほぼ消滅した、と認識。さらに高度化するIoT ソリューションのユーザニーズに応えるために、エッジ分析Toami Analytics を強化する方針を打ち出している。同社でもエッジ分析は、ゲートウェイ部におけるAI 自律制御による通常の一次分析と、Toami クラウドにデータを上げてモデルの再生成を実施する二次分析の構成となる。

展示会を見る限り、IIoT の先行市場は、すでにエッジ部でのインテリジェンスを競う時代に突入しつつある。この一方で、IIoT を一時のブームに過ぎないと判断し、あるいはセキュリティの組込み課題も含めて様子見の企業も依然あることから、会場では「IIoT に関する企業の対応はすでに2極化しつつある」という声も聞かれた。