Edgecrossコンソーシアム-SCF2017のデモ展示会場から

Submitted by Shin Kai on

 

エッジコンピューティング領域を軸とした未来のものづくりを目指して、Edgecross(エッジクロス)コンソーシアムが、システムコントロールフェア(SCF)2017開幕日の11月29日に設立され、同展で動態展示を実施して注目を集めた。同コンソーシアムは、日本政府の産業政策「コネクテッド・インダストリーズ(Connected Industries)」が推進するオープンな協調領域とクローズドな競合領域の棲み分けを指向している。その協調領域を確立するためにIoT、ビッグデータ、AI などの取り込みによって製造業、特にFA 分野の競争力を底上げするビジョンが、日本の製造業の現場(クラウドコンピューティングを想定したネットワーク上では”エッジ“に位置づけられる)の強みをさらに強くする発想と結びつき、ひとつの組織となって活動を開始した。

このコンソーシアムの活動の焦点は、競争力のある現場に可能な限り近いところで、現場から生じるIoT のデータをリアルタイム処理し分析し診断して、現場目線で役立つ情報を現場にフィードバックするところにあり、ネットワークの”エッジ“ をいわばもう1つの”コア“にする試みといえる。SCF2017 で同コンソーシアムは、故障検知/予防保全、品質管理、設備のリアルタイム稼働監視の3つのアプリケーションを想定して展示を構成した。そのデモ展示からうかがわれるEdgecrosss の特徴をいくつかご紹介したい。

Windows ベースのミドルウエア

Edgecrossの第1の特徴は、Windows ベースのソフトウエアプラットフォームであり、動作環境はハードウエアを選ばない。従って、Windows 10 搭載の産業用PC(IPC)やノートPC でも動作する。展示ボード上には、横一列に、アドバンテック、オムロン、コンテック、シーメンス、NEC、HP、PFU、ベッコフ、ポートウェル、三菱の各IPC を揃え、これにそれぞれコントローラを接続して試作版Edgecross を動作させてみせた。

故障検知とエッジアプリケーション

三菱電機製インバータ/三相モータのデモ機とオムロン製レーザ変位センサのデモ機を用意し、そこで発生するデータをコントローラで吸い上げて、そのデータをIPC上のEdgecross で処理してエッジアプリケーションに展開した。3種のエッジアプリがデモに利用されていた。ひとつはKSK アナリティクス提供の分析ソフトウエアRapidMiner で、三菱のデモ機の電流、振動等のデータを分析しその結果を可視化してスクリーン上に表示した。デモ機はボタン操作で負荷を調整して擬似故障データを発生させることが可能で、これにより、故障検知時の警告表示が確認できる構成としていた。2つ目は、JT エンジニアリングが提供するJoySPC で、オムロンのレーザ変位センサが検知した銅板ワーク上の傷のデータから、その傷の深さを分析し良不良の判別をスクリーン上に表示してみせた。

稼働監視とクラウド利用

3つ目のエッジアプリはキャノンIT ソリューションズが提供するシュナイダーエレクトリック製SCADA ソフトウエアWonderwareで、展示会場内のオムロンブースで稼働中のロボット検査デモと三菱電機ブースで稼働中のロボット保全・安全デモの設備稼働状況のデータをそれぞれリアルタイムに収集し、見える化してスクリーン表示した。

さらにそれぞれのロボット稼働データをNEC、IBM、オラクル、富士通の計4社のクラウド環境に送り、例えばNECクラウドでは、稼働率等の分析情報を含む稼働状況を表示し、IBM ではWatsonを活用した分析データを表示するなどのデモを展開していた。以上を通じて、展示ボード上のデモは、Edgecross ソフトウエアプラットフォームの主要要素のひとつであるプラグイン機能についての実演を実現した。

主要なコンポーネント開発の課題

IPC 上で作動するEdgecross プラットフォームを構成する主要コンポーネントとして、今後コンソーシアムが取組む開発課題には大きく、リアルタイムデータ処理機能とデータモデル管理機能の2つがある。リアルタイムデータ処理には、スクリーニングによりどのデバイスのデータをどのような周期で収集するかといった設定機能が要求される。さらに、この収集データをスケーリング等エッジアプリケーションに合わせた形に加工してどういうタイミングで送り出すかなどの処理機能も要求される。また、Edgecross にはデータの収集に留まらず、データ診断後のフィードバック機能も備えることになるが、この機能もリアルタイムデータ処理機能のコンポーネント開発に含まれる。このフィードバックを実現する機能によって、リアルタイム診断を実行するアプリケーション開発が格段に容易になることが期待されている。

また、データモデル管理は、生産現場の機器の構成などをツリー状にモデル化する機能で、今回のデモでは、三菱のインバータ/三相モータのデモ機とオムロン製レーザ変位センサのデモ機のデータモデル構成、および、両社それぞれのブースで稼働監視の対象となったロボットのデータモデル構成をそれぞれ作成して組込んだ。データモデル管理は機器の構成要素としては部品表に似た部分もあるが、例えば電流値、温度、トルク値などもデータモデルで管理できるところは部品表と異なる。

このデータモデル管理は、対象となる設備・機器の種類、機器メーカに応じて、さらに装置・機器の仕向け地によっても異なる構成になるため、その開発は容易でないことが予想される。しかし例えばデータ分析から故障箇所を検知する場合に、データを意味づけるデータモデルが正確に構成されなければ、故障の原因や箇所を効率よく特定できない。アプリケーション開発においてデータ活用を容易にするデータモデル管理は重要である。

このデータモデル管理を効率的に開発するためのアプローチとしては、現在2通りを想定している。1つは装置・機器メーカがネットワークプロバイダ毎に用意しているプロファイルを読込んでモデルを自動生成する手法であり、もう1つは、モデル化を目的としたデータモデルの標準化を推進する手法である。モデルの標準化に関しては、今後コンソーシアムにテクニカル部会を立ち上げる予定で、その部会が議論することになる見通しである。いずれにしてもこのデータモデルの作成はコンソーシアムに参加する各装置・機器メーカの関与なしには実現しない。

今後のスケジュール

賛同企業数は、11月6日のコンソーシアム設立発表会時点で51社だったが、11月29日のSCF 開幕時には53社に増えた。今後も引続き展示会出展等を通じて、国内外から賛同企業を募る。また、他のエッジプラットフォームやクラウドベースのIoT プラットフォームとの連携を図る方針である。

エッジアプリ開発に必要な開発キットはすでにベータ版があり、賛同企業に名を連ねるIT システム企業およびエッジアプリケーション開発企業数十社向けに一部提供を開始している。Edgecross の正式版基本ソフトウエアの販売開始は2018年春を予定しており、これと機を合せてマーケットプレイスを開設し、エッジアプリケーションの販売提供も開始したい方針である。