「Connected Industries」の具体策-東京イニシアティブの発表会から(3) 

Submitted by Shin Kai on

 

前回までのブログでリアルデータの活用を軸とする日本の産業政策「Connected Industries」の概要と5つの重点取組み分野、3つの横断的政策を2回に分けてご紹介した。その発表会場では大臣懇談会に参加して同政策に助言してきた8人の業界人が登壇して、それぞれの立場から、「決意表明をしろ、とのご指示」(ファナック会長稲葉善治氏)を受けて、この政策の推進に関わる具体策の発表が行われた。今回はその発表概要を紹介したい。

テーマは、オープンプラットフォーム提案から、データの協調、製造企業とベンチャーとの連携、標準化推進、バックオフィス改革、Society 5.0 との連携などに及んでいる。

稲葉善治氏(ファナック会長兼CEO、JARA日本ロボット工業会会長)

「Connected Industries」の実現に向けて、エッジ・ヘビーなIoT 開発を進めている。すなわち、製造現場の工作機械、産業用ロボットと各種センサをつなげることにより、大量のデータをリアルタイムに取得し、生産効率の向上や省人化の実現に向けて同技術を活用したい意向である。また現場からリアルタイムで上がってくる大量のビッグデータを機械学習、ディープラーニングの技術を駆使して処理・活用し、生産システムの個別最適から全体最適を目指して、自律的な生産効率の向上を図るためのシステムにつないでいきたい。CEATEC 展では、ファナックが提案するオープンプラットフォームであるFIELD system のサービス開始を発表する。こういった技術を日本から世界に発信できるようにパートナー企業と一緒に頑張りたい。

川崎秀一氏(沖電気工業会長、CIAJ情報通信ネットワーク産業協会会長)

私もCeBIT展に参加し、その折に「Connected Industries」のコンセプトが発信されたことを歓迎したが、その後の6カ月余りの間で、これを政策的に具体化されたことに敬意を表する。この機会を生かし、グローバルに戦える企業を目指していく。その中でCIAJ は、まさにそのインフラ、横軸となる通信を支える役割を担う。これからは協調の精神で、各企業、団体をつなぐ企業団体になる。

長榮周作氏(パナソニック会長、JEITA 電子情報技術産業協会会長)

大臣懇談会を通じて「Connected Industries」の5つの取組むべき重点分野が決まった。その中で、スマートライフという分科会の領域でJEITA が貢献していくことが期待されている。このJEITA のなかで、9月にスマートホーム部会を立ち上げた。これにはJEITA 会員企業をはじめ、電気・電子の関連団体のほかに、住宅、不動産、電力といった異業種も含め11の団体から参画いただいている。家を空間とするコアにこれから人々のよりよい暮らしをどう実現していくのか、スマートなホームの具体化に向けてデータの利活用の協調領域と競争領域をどう線引きするか、も検討していく。また家の中はプライバシーの塊であり、セキュリティのルール整備も必要になる。スマートシティ化に関しては、膨大なデータを活用してどのように新しいビジネスモデルを創出していくか、も検討課題になる。

西川徹氏(プリファード・ネットワークス社長兼CEO)

弊社はAI、特にその中でも深層学習(ディープラーニング)と呼ばれる技術を元に、この技術を機械を賢くすることに活用しようとしている。例えば、自動車、工作機械、ロボットにおけるAI 活用による性能の向上を進めている。AI と機械の組合せは、単に機械を賢くするに留まらない。機械はネットワークでつながることができ、それによって機械同士が協調したり、あるいは機械がひとと協調することで、新しい価値を生み出すことができる。機械を賢くすることだけでなく、協調させることによって生まれる新しい価値を多くの人に届けたい。機械を協調させるためには、機械を深く理解し、その稼働環境や課題を理解することが前提となるが、その遂行はわれわれの企業単独では難しい。その課題に取り組むきっかけとなったのが、ファナックとの出会いだった。機械同士を協調させる未来を語り合えるようなファナックとの出会いが、われわれのような若い企業の運命を変えていく。そのような運命的といってもいい出会いが、「Connected Industries」の取り組みによって実現し、もっと多く企業同士が出会うことによってイノベーションの創出がはじまることが楽しみである。

東原敏昭氏(日立製作所社長兼CEO)

デジタル化の進展で人々のマインドも大きく変わってきている。今までプロダクトで納入していたものが、価値の提供へと変わってきた。また、クローズドからオープンイノベーションへと変わってきている。この変化を実感することが大事だ。その意味から、いま進めようとしている「Connected Industries」は大きなオープンイノベーションのプラットフォームを提供していただいたという認識である。日立としても、社会イノベーション事業を進めている。これは、100年以上の歴史を持つものづくり、分業制御といったオペレーショナルテクノロジとプロダクト、それに50年以上に及ぶIT の技術を組み合わせて、いかに社会の課題を解決していけるかに取組んでいる。しかしこれは1社だけではできない。そこでキーワードは、「協創(collaborative creation)」と「コネクト」である。日立は昨年5月にAI やビッグデータを活用するためのLumada(ルマーダ)というIoT プラットフォームを発表した。これは、いろんな方がオープンプラットフォーム上でアイデアやデータを出して、それを組み合わせて新しいバリューを創る仕組みである。プラットフォームだけではなく、課題を共有しながら、課題解決のためのビジネスモデルをデジタルで検証し実現していく。日立は、データ、人、企業、産業をつないで新たな価値を見出していく仕事をしていきたい。「Connected Industries」は産業界の活性化、日本の持てる力を世界に発信することと同時に、政府が進めているSociety 5.0 にあるクオリティ・オブ・ライフの向上にもつながっていく。これを企業としてもしっかり支援していきたい。

牧野正幸氏(ワークスアプリケーションズCEO)

これまで日本のソフトウエア会社は、政府の大きな取組みの中には通常は入ってこなかった。しかし今のIoT、AI の時代はソフトウエアが中心的に位置づけられる。その流れのなかで、ようやくわれわれのようなベンチャー企業が、重要な政策決定のなかの役割を担うようになったことは喜ばしい。弊社は世耕大臣が話の中でも触れられた、バックオフィス改革を課題としている。日本の製造業は周知のごとく、製造現場、サービス現場ともに世界のトップ水準にある。これら分野のさらなる向上には、乾いた雑巾をさらに絞るような困難さが伴う。その一方で、日本のバックオフィス領域の生産性は依然として世界的にも低水準の状況にある。サービス、製造業の圧倒的な現場力をバックオフィスで食い潰しているというのが現状の認識である。ではバックオフィスの改革は可能か、という問いに対しては、IoT とAI の技術によって、バックオフィスを大幅に革新できる、というのが弊社の回答である。事務部門、サプライチェーンの現場で、いかに不便なコンピュータ業務のために割いている手間と時間を削減していくかが鍵である。その観点から「Connected Industries」のなかで重要視しているのは、IoT とAIを活用して人とコンピュータをいかに効率よくつなぐか、その取組みを通じてバックオフィスの効率を高め、日本の強い競争力を世界に発信していくことである。

村井純氏(IoT 推進コンソーシアム会長、慶應義塾大学教授)

「Connected Industries」は含みの多い重要な政策ワードになっていると思うが、私の立場から3つの点を申し上げたい。「Connected Industries」は、デジタルネットワークがすべてのインダストリをつなぐという前提になったために、このようなことができようになった、という意味であろうと思う。学の立場も含めて、産官学が一緒になって取組むことになる。そこで第1点目は、CeBIT 会場でも繰り返し議論になったが、縦割りを横につないでいく、縦構造のサイロを乗り越えていくことが新しい力を生む。官でも縦割りの担当行政を持っているから、IoT 推進コンソーシアムでは複数の省庁が力をあわせる体制を作っている。官では、コネクテッド・ガバメント、コネクテッド省庁を考えていかなければならないだろう。学では、コネクテッド・リサーチで専門領域を超えて力をあわせることが必要になってくるだろう。2点目は、基本的なモノづくりからその上のネットワークで作られるサービスまで、ここに対して一番品質と信頼を求めている国は日本である。従って、日本で生まれてくる技術は本当に信頼度と品質の高いものを作り上げ、それを使う人はその技術を信頼しているのが現実である。ではこれからデジタルテクノロジの中で、この信頼、品質をどうやって作れるかが課題になる。3点目は、これを推進する技術の国際標準である。技術の国際標準に、この新しい分野でリーダーシップを取ることも、産官学で力をあわせて取組むべき環境整備であろう。

山西健一郎氏(三菱電機会長、経団連副会長

経団連では官民一体となってSociety 5.0 を推進している。これは、サイバー空間と現実空間を融合して、社会課題の解決と経済発展を両立させようとする構想で、この実現には、「Connected Industries」の考え方が重要な役割を果たす。また一方で、経団連としてもオープンイノベーションを推進している。短期的な成果は、企業のビジネスを進めていく上で実現できるが、中長期的な成果は、産官学のオープンイノベーション無しには実現が難しい。ただ一方で、このイノベーションを実現するには時間がかかる。その実現のためには長期的な視点でイノベーションを支えていく姿勢が重要になるだろう。産業と産業、産業と大学、産業とベンチャー、ベンチャーと大学による「Connected Industries」を通じたイノベーションがSociety 5.0 を実現していくだろう。三菱電機でも、「Connected Industries」重点5分野のなかの「ものづくり・ロボティクス」分科会に参画して、協調領域の最大化や人材育成等について議論を深めていきたい。