「Connected Industries」の横断的な政策-東京イニシアティブの発表会から(2)

Submitted by Shin Kai on

 

先週のブログでは、経産省がこのほど主催した「Connected Industries」カンファレンスから、主として5つの重点取組み分野について紹介したが、今回は、これと合せて公表された3つの横断的な政策を中心に紹介したい。

経済産業大臣の世耕弘成氏が東京イ二シアティブ2017のなかで、5つの重点取組み分野に続いて発表したのが、(1)リアルデータの共有・利活用 (2)データ活用に向けた基盤整備(研究開発、人材育成、サイバーセキュリティ)、(3)更なる展開 (国際、ベンチャー、地域・中小企業)の3領域に束ねられた産業政策である。

協調領域におけるリアルデータの共有・利活用

IoT の進展によって、流通量が急増しているリアルデータについて、日本の強みを活かすためには、協調領域の最大化が重要である。そのため、「Connected Industries」の重点分野における協調領域のデータ共有を行う民間事業者の取組みを政府が認定し支援する制度を新設する。

リダルデータの活用に向けたAI システムの開発も重要である。そのため、AI チップ研究開発の支援に加えて、AI ベンチャー企業と、リアルタイムデータを大量に保有する中堅・大手企業の連携によるシステム開発を支援して、グローバル展開を加速する。

データ活用に向けた基盤整備

ネットとリアルの両方に精通したIoT 人材(ハイブリッド人材)の育成も課題となる。そのため、今年7月に創設した「第4次産業革命スキル習得講座認定制度」を通じてIT データ分野を中心とした専門性が高くかつ即戦力となる人材の育成を支援する。また、自動車、産業機械などの技術者がAI の中核的技術であるディープラーニングを習得することも重要である。(CEATEC Japan 2017で設立が発表された)日本ディープラーニング協会が取組もうとしているようなAI 人材育成は、日本の産業競争力向上の基盤として不可欠であり、経産省としてもその取組みを支援していく、という。

さらに、基盤整備の一環として、一連のサイバーセキュリティ対策の強化が不可欠となる。

中小企業と国際展開

IoT の普及に向けて、地方・中小企業への面的展開も課題となる。そのためには、メリットの見える化と導入しやすいツールの発信が鍵となる。ものづくりやIT に関する専門家派遣などを行ってきた「スマートものづくり応援隊」、専門的な助言をワンストップで行う「よろず支援拠点」、全国74地域が参加する「地方版IoT 推進ラボ」の取組みを拡充するとともに、優良事例を収集して地方や中小企業への普及を強化していく方針である。

さらに、世耕氏は、「IoT、ビッグデータ、AI などの技術革新に対応して顧客や社会の課題を解決していくことは、世界各国に共通の課題となっていることから、Connected Industries の取組みも国内に限定できない。ドイツのIndustrie 4.0 など世界各国から新たなコンセプトが提示される中、日本発のコンセプトとしてConnected Industries のコンセプトをしっかりと世界に発信していく」と国際展開を力説。具体的には「ドイツとの首脳間での合意に基づく協力に加えて、ロシア、チェコなどの欧州諸国、あるいは日本にとってサプライチェーン上重要な国であるタイなどアジア諸国との協力を進めていく。例えば、東京の機械とタイの機械がつながることによって、サプライチェーン、バリューチェーンの強化が図られ、両国の競争力がともに向上していく、ということを期待している」と語った。

またそのために、「IoT 推進コンソーシアム」のなかに、国際連携ワーキンググループを設置し、相手国のニーズに合った日本企業の紹介や、産学の技術的専門組織を通した「顔認証システム」の海外展開支援などを進める、という。国際標準の観点からも、米国がデファクト標準に、欧州がデジュール標準に取組む中、日本としても官民で戦略を構築し、国際標準化を担う人材の質的・量的拡充や、それを通じた欧州などの海外勢との初期段階からの連携強化も進めたい意向である。

今後の柱になりうる検討課題として、例えば、協調領域としてのバックオフィス改革、サプライチェーンにおけるフィンテックの分野が検討されている。

急務のベンチャー育成

「Connected Industries」の重要な担い手としてベンチャー企業を欠かすことができない。世界各国では、グローバルな競争力を持つベンチャー企業を生み出すための、ベンチャーエコシステムの実現に向けた熾烈な競争が進行中である。日本においても、飛躍的な成長を目指すベンチャー企業に対して、支援拠点をつないで、政策リソースを重点化し総動員化することが必要となる。このため、国内の大企業や大学などに眠る人材や技術資源を、世界で戦えるベンチャーを支えるためのエコシステムへとつなぐことができれば、世界から優秀な人材を集める枠組みになるのではないか、ということで検討を進める方針である。

「最も重要なのは人づくりる」と語る世耕氏は、そのために「グローバルで通用する次世代の起業家や、天才クリエーターの育成、大企業や大学に眠る優秀な人材のチャレンジ支援を強化する」と語る。例えば、IT を駆使して社会にイノベーションを起こす若者の発掘・育成を行ってきた「未踏事業」を拡充して、企業や事業家まで支援する新たなプログラム「未踏アドバンスト」事業を実施する。また、世界の優秀な人材の獲得に向けた新たな施策の検討も進める方針で、勇敢な若者が失敗を恐れずにチャレンジする環境を創出することを目指す。既成の「サンドボックス制度」(現行法の規制を一時的に止めて特区内で新技術を実証できる制度)の活用や、最先端技術の実証評価を行う場の整備を実施し、成長資金も底上げする。

2022年までに、ベンチャー投資を対名目GDP 比で倍増する計画である。このために、政府機関による資金供給支援のあり方について抜本的に見直すとともに、民間のベンチャーキャピタルや事業会社によるベンチャー投資の促進に向けて政策を総動員する意向である。

危機感とその克服

世耕氏は、「Connected Industries」東京イ二シアティブ2017を公表するにあたリ、最後に、同氏の抱く「危機感とそれを克服するための勝ち筋」の共有を参加者に要請した。同氏によれば、データを巡る競争が国際的に激しさを増していく中、日本はいま、大きな分かれ目に来ている。世耕氏は「インターネットが世界中に広がる中で、最初のビジネスにおける競争では、日本は必ずしも勝ち組になれなかった。今後、競争領域はリアルデータとなっていく。この分野での競争に勝たなければ、10年後、20年後の日本の産業基盤、良質な雇用が失われることになると懸念している。リアルデータの領域では、日本は強い現場を持っている。これを活かすことこそが、勝ち筋であろう」と語る。

しかしまた「そのためには、協調領域における協力が不可欠である。これまで日本企業は、国内の競争に明け暮れて、実は、グローバル市場を見据えた協調が苦手だったのではないか。今後は、この点をぜひ改めて、グローバル市場での競争を見据えて、戦略的な協調を進めていくことが重要になるだろう。さらに、企業と企業、企業と個人、日本と海外など新たな連携を通じて、リアルデータから付加価値の高い製品やサービスを作っていくことも必要であり、これこそがまさに目指すべきConnected Industries の姿である。産業界からも、これまでの常識にとらわれないアクションが次々と生まれてくることを期待する」と述べた。

次週のブログでは、この発表会で登壇した、産業界の代表8人の方針発表をご紹介する。