ARC 東京フォーラム2017 を終えて

Submitted by Shin Kai on

 

『変革する産業: デジタルエンタープライズの実現』をテーマに据えた第19回ARC 東京フォーラムが7月11日に東京・両国のKFC ホールを会場に開催された。参加者数252名には、米国、ドイツ、韓国、シンガポール、マレーシアからの参加者も含まれた。また会場で回収した122名分のアンケート集計によれば、参加者の構成はユーザ35%、サプライヤ31%、インテグレータ18%、その他16%であった。セッション構成は、基調講演1件、招待講演1件、その他セッション7件とパネル討論1件であったが、このうち5件のセッションは海外からの講演者の英語による発表で、同時通訳が行われた。日英同時通訳は、海外からの参加者の便宜を図って、日本語による発表の場合も含め、全てのセッションで実施している。このほか、展示フロアでは13社・団体がテーブルトップのデモ展示を行った。

実は東京フォーラムの規模はここ数年間、ほとんど変わっていない。1日限りのイベントであることと、会場の収容能力という物理的な制約から、自ずと開催規模が限定されている。それでも、ここ3年間連続して満席であり、会場内の混み合っている感が強いのは、やはりIoT、インダストリ4.0 の技術導入、クラウド利用、ビッグデータと分析、CPS(サイバー・フィジカル・システム)、エッジコンピューティングと高度AI 活用、リアリティモデリング、仮想化、オープンプラットフォーム、スマートファクトリなどの要素技術と開発ソリューションが矢継ぎ早に製造業界に流入してきているのが原因である。これらの技術要素とアプリケーション開発は主として欧米が先導しているから、ARC 東京フォーラムは自ずと世界の先進の話題と動向を、国内のオートメーションコミュニティ向けにお伝えする窓口の役割を果たすことになる。

製造事業が産業用IoT(IIoT)を実用化する上で必須要件となるのが、IT(情報技術)とOT(運用技術)の融合である。これと歩調を合わせるように、ARC 東京フォーラムのスポンサー企業にもIT 系企業の積極的な参入が続いている。今年はIT 系企業スポンサー (Bentley, Stratus, Dell, Intel, IBM, Bayshore, Wind River) の数が、OT 系企業スポンサー(Siemens, Honeywell, 三菱電機、横河電機)の数を上回った。

好評だった講演から

例年通り、会場内で回収したアンケートに基づく今年のフォーラムの分析結果は、後日、参加者全員とスポンサー企業にお送りする予定で準備している。ここでは、アンケート集計をもとに今年のフォーラムの発表の中でも高い評価を集めたセッションをいくつか採り上げたい。まず最も多く好評のコメントを集めたのが三井化学の取締役専務執行役員の松尾英喜氏による招待講演であった。『ICT で化学プラントはどう変わるのか?人の役割はどうなる?』という提題の発表は、国内化学産業を取り巻く環境を踏まえた上で、インダストリ4.0 などのIoT ベース技術の導入で工場もビジネスも変貌する可能性をもつに至っている状況を語り、化学メーカの国内生産拠点が目指す姿と三井化学における次世代工場構築に向けた取り組みを紹介した。さらにICT の化学プラントでの活用の課題をまとめ、「ICT の活用は手段。生産性を高め、成長を持続し競争力を高められるかが重要」「ICT が張り巡らされたプラントでは人は成長できるか?プラントは進化できるのか?」などの重要な問題提起が行われた。これに対してアンケートの回答では「ICT 技術適用に対する課題が非常に分かり易くまとめられていた」「技術動向に対する深い知見(ものつくり)に基づいて抽出された課題は大変参考になった」などの感想とともに、「日本の化学会社の底力を感じました」「Very pragmatic regards current situation in Japan.」という感想も寄せられた。

またベントレー・システムズのマーケティング・ディレクタであるアンマリー・ウォルタース(Anne-Marie Walters)氏の講演『工業化BIM によるプロジェクト実施の迅速化とデジタルDNA の活用による資産パフォーマンスの向上』を評価するコメントも数多く集まった。コメントには、「リアリティモデリングの紹介に大変興味を持った」「3D モデルというか VR の 3D 画像をすごく簡単に早く構築できることにおどろいた」などの反響があり、また「Bentley と Siemens のアライアンスに基づくエンジニアリングモデルの Mind App での提供は非常に興味深い」というコメントもあった。

このほか、横河電機のプラント情報ビジネス開発部部長である佐藤恵二氏による『生産情報融合による生産システムの新機軸』の講演は、特にユーザ企業の参加者から「日常のオペレーションを 4M でとらえたことは、基本的なことに立ち返る取組みで面白かった」「現実的なアプローチの説明で説得力がある。ユーザの変化をとらえている」などの評価が集まった。また、三菱電機と共同でプレゼンを行った日本IBM ソフトウエア・システム開発研究所Watson IoT ソリューション・アーキテクトの磯部博史氏は『 予知保全/製造品質の改善の基盤』と題してIBM Predictive Maintenance & Quality (PMQ)を中心に製造業のAI 活用の現状を紹介して、多くの参加者から「Watson + PMQ で段階に応じてサービスを提供していることがわかった」「興味を持った」というコメントを集めた。

次回のテーマ

2018年の東京フォーラムに期待するテーマとして、アンケート調査では、IIoT、AI、サイバーセキュリティ対策の3件が最も多く提案された。いずれも、継続したテーマとして活用事例、対投資効果、新たなソリューションの紹介などに期待が集まっている。この他のテーマとしては、ロボティクス、ユーザからの発表、デジタル・ツイン、IT,OT,ET の融合、インフラ構築の工夫など。また、「(新規性を議論に取り込むために)パネル討論には、海外企業の声を反映させるべき」とのご提案もいただいた。参加者とコミュニティの期待に応えるべく、講演内容と講演者の選考を進めたい。